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2003/11/02
第9回 森林と市民を結ぶ全国の集い 北海道2003 

第5分科会
お魚から森を見る


3時間半に及ぶ議論は、1200字詰めの原稿用紙で68枚にもなる。ここではこれを10枚程度に編集している。これでもダイジェスト版。
パネルディスカッション
孫田:それでは、パネリストの自己紹介を簡単にお願いします。

妹尾:現在、流域生態研究所を設立し、川や魚、そして流域の生き物と環境の研究を行っています。以前は農業土木の技術者として河川整備を行っていましたが、魚が住めない河川環境に疑問を感じ、自ら魚の目線で川や陸を研究することにしました。魚の生態行動、川の形状、水の力を魚の視点で見ていく中で、魚のことが分からない時に自分ならどうするだろうと考えると、魚も同じようなことをします。結局、魚と人も同じ動物だということが分かってきました。「魚から森を見た」ときに川の水量だけでなく、水質、成分が変わってきた気がします。川というものは、生命の大動脈だと思っています。大動脈に流れる血が変わっているのです。大動脈が分断されてしまっていると言えます。

山本:私は、30年ほど前は大阪で公務員をしており、下水の処理に携わっていました。当時の最新技術の処理方法でも、下水として流す水では健康な金魚が生まれませんでした。背骨の曲がったもの、反対を向いて泳ぐもの。これで良いのかという疑問を持っていました。それと同時にシマフクロウの数の減少にも興味を持ち北海道に移り住みました。シマフクロウの住む環境について目を向けてみると、まず、河川の衰退がシマフクロウの数の減少に大きく関わっているのではないかと思いました。特に河川に暮らす魚の数の激減がシマフクロウの減少に関わっている気がします。また、現在では、シマフクロウが営巣するのに適するミズナラなどの大木が森林の伐採によって少なくなっていることも分かりました。今、シマフクロウの保護のために給餌と巣箱かけを行ってみると、仮に木が貧弱な所でも食料となる魚がたくさんいれば、繁殖していくという感じがします。保護策を講じていくにしても、開発を止めることは大変難しいですが、シマフクロウの能力や適応能力を踏まえて、もっと違う方法を見出していけたらいいのではないかと思います。

平田:私は、魚と人間の付き合いはやはり魚釣りではないかと思います。そして、その付き合いはうまくいってないと思います。例えば、イトウは現在全道で数箇所しか生息域が無いといわれていて、尻別川ではもう20年も繁殖している痕跡がありません。そのような中で、魚を取り戻すことを考えるときに、環境破壊、特に周囲の森林を切ったために川の水の要素が変わって魚が棲めなくなったということを、第一に考えます。もう一つは、魚釣りの人たちのモラル、「一匹くらい」という意識が捕り過ぎにつながっていることがあります。そういったことが、魚にとっては大きなプレッシャーになっている。さらに、釣り人は「釣る」ために魚を放流してしまいます。人工増殖によって、いわゆる外来種問題を引き起こすのです。元々の北海道らしい、その土地らしい景観とか、生態系が失われている状況で、人間の振る舞いをどのように変えていくか。それが、大切になってきていると思います。それを野生動物の保護管理と呼んでいますが、専門家にいろいろ取材しているので、今日は少し説明させていただけたら、と思います。

孫田:山本さん、魚がたくさんいればシマフクロウは何とか維持されていく、とおっしゃっていましたが…。

山本:シマフクロウに限らず。ほかの生き物でもそうだと思っています。魚がたくさん棲むような河川を森なしで維持できるかということが一番問題だと思います。

妹尾:水の質も、量も森の状態で変化するという感じはします。森林の伐採によって増えた水の流れ方を河川改修によって食い止め、砂防ダム・治山ダムをつくると、今度は河床低下という結果になりました。そうなると魚が上ってきても、産卵する場所が減ってきます。河川改修によって、どんどん土砂が海に流れていくが、これは山から出てきているという誤解が生まれています。実は、川底の土砂が流されてしまっているのです。川を生命の大動脈と考えると、体内と同じように川の感覚を知らなければうまくいかないと思います。

平田:そのとおりだと思います。川の上流から海への流れを大動脈とすると、その逆の静脈もありますね。重力にしたがって、陸地の養分が山から海に流れて行くばかりに見えますが、逆に海から蒸発した水は山に戻り雨を降らす。そして、リン酸・窒素・カリのような養分は、海鳥が海の魚を取って陸地に運んだり、サケやマスが産卵のために遡上することで陸地に養分を運びます。それは、まさしく静脈ということになりませんか。

妹尾:付け足すと、山から海に運ばれていく養分も河床低下によって少なくなります。地下水が、直接河川に剥き出しになった岩盤の中から流れ出てくる。そうすると地表を通る過程がなくなり、ミネラルの含有量が減ります。また、川は分解能力もあって、その曲がりくねった長い道程の中で木の葉などが栄養塩にまで分解され、海に運ばれます。だから、河畔林を造成しても、流れの一定の川にたくさん木を植えたら、分解されないごみを海に運んでいるだけになります。水には水の仕事をやらせていく、つまり、本来の川をつくれば土砂コントロールも水がやってくれるのです。また、結果的に、うっそうとした豊かな河畔林を水がつくってくれ、いろいろな動植物が生活可能になります。

孫田:河畔林の話が出ましたが、山本さんはあちこちで木を植えておられますね。

山本:一説には、河畔林は川から50mの幅があれば、川は守られるといわれますが、シマフクロウには足りません。河川の形態によって違うと思いますが、もしそれで守られるということになると、森に生息している動物達にとっては痛手になります。

妹尾:根室で、まっすぐの川に25m幅でイタヤカエデを植えています。まっすぐなコンクリートの川にただイタヤカエデが植えてあって、それが本当に海や動物達にとって良いのか疑問です。動物にとっては、逃げるのに必要なうっそうとした林が必要です。トータルに川と河畔というものも考えていく必要がありますね。水質を考えても、このようなところでは水質浄化というものはありえません。河岸段丘の変化にとんだ地形に、草本が入って、いろいろな樹木が入って初めて水質条件が良くなるので、そういうところから復元していかないと難しい感じがします。今は、ごみを投げているとしか感じられないですね。

平田:ワイルドライフ・マネージメントでは、どのような環境をそこで実現するかという目標をはっきり設定することがとても重要になっています。例えば札幌新川にシマフクロウの森をつくるというのは突飛な感じがします。その環境に暮らす人や利用する人たちの求めている声を集約するシステムがあることが好ましいと思いますが、皆さんはどう思われますか。

孫田:地元の人の意見を聞いて、今までは川を壊したり、山を壊したりしてきたということもあります。地元の人の意見を聞けばいいだけではない気がしますが…。

平田:地元の人にも正しい情報を説明すればわかってくれると思っています。地元の声に期待してはいけないというのは、悲しい気がしますが、そのような現実はあると思います。ただ、都会人、あるいは、遠く離れた者だけが、あそこの自然は大事だから守ってくれ。というのは結局それも歪んだ形のような気もしています。例えば、地元に移り住んで環境保護に取り組んでいらっしゃる方が説得力を持って地域の人、あるいは行政に対しての理解を仰ぐなど、そんな形もあると思います。

孫田:山本さんにお聞きしたいのですが、シマフクロウの保護、あるいは管理のために森を増やす活動なの中での地元の人との折り合いはどうですか?

山本:大変難しいです。理解どころか逆にシマフクロウが悪者になります。農家の人は農地が広いのが良いですし、漁師さんにシマフクロウが引っかからないよう、刺し網を船に放置しないように頼んでも結局、面倒くさいのでしょう、なかなか協力を得られません。

妹尾:森がないといけないということは市民のみなさんに共通する考えです。ただし、川そのものの姿というものが理解されていないと感じています。本来の川は、10の力がきても3に和らげるような機能を持っています。でも、人工的につくったものは10の力は10でしか受け止められない。20がきたら壊れます。そういう壊れる川をつくっているのです。都市河川では、用地が限られていますが、その中でも水が多少遊び、道草ができる川をつくることも可能だと思います。一つの軌道に押し込めない川の形が、川が川としての役割をするのを可能にすると思います。

山本:今、まっすぐな河川を元に戻そうとする動きが出てきていますね。堤防はそのままにして、堤防内でも蛇行を戻そうとしていますが、そのような少しの範囲でもやったほうがいいのでしょうか。

妹尾:やり方次第です。堤防を残したままで、旧川に入る水の量を何らかの形で制御しないと無理ですね。

平田:北海道開発局の話では、治水の安全度を下げない為に堤防の中で、蛇行を戻し、河川機能を増やすと言っていました。

山本:本来の氾濫源を堤防で制限し、ストレートにしていたわけですね。堤防をそのままにして、蛇行を促すことがほんとうにできるのか、疑問です。

平田:現状では、堤防ぎりぎりまで農地があって、自然に戻す余地がそれを前提にされてしまっています。それが限界なのかもしれません。

妹尾:戻す方法次第ですね。蛇行する川では、洪水になると氾濫します。洪水の時は、水は直線に流れようとする。ということは、蛇行があっても氾濫して直線で流れようとします。しかし洪水が収まるころには、蛇行部では水がよどみ、土砂を溜め込み、平水に戻るときそこを流れようとして掘ります。そうして、瀬・淵が出来上がります。だから、やり方によっては色々できます。思い切って、平時の流れと、洪水の流れを変えてしまうとか。

平田:蛇行を戻すという関係で標津川を取材しました。昭和40年代レベルの多様性、生態系をそこの川に戻すという目標ですが、その頃の生態系、例えば、どんな魚がどれくらいの密度でどのように棲んでいたか、どんな植生だったか分かりません。幸い近くに小さな自然河川があったのでそこを真似て、目標を明確に設定できましたが、ほとんど人の住んでいないところだったからできたことですね。開発し尽くされた、街の中でやるとなると大変ですね。目標の設定と、生活との折り合いとが。

孫田:本来の環境ということでました。山本さん、開発されていないシベリアや国後のことを話していただけませんか。

山本:シベリアでは河畔と中島はハルニレやヤナギなどの広葉樹が10数m〜30mくらいの高さで森となって広がっていて、斜面から尾根にかけて針葉樹に変わっていきます。シマフクロウは高いハルニレと低いハルニレの間を通りますし、また網の目みたいに水路が入っているので、シマフクロウにとっては非常によいところです。魚は、数量的には知床の河川と変わらないけれども、魚体が大きかったですよ。オショロコマなどが捕れました。シベリアの河川のような川は北海道にもぱっと見ではありますが、類似した森というのは北海道にはないと思います。

孫田:こうやって見ると、北海道の森とはサイズがまるで違いますね。

山本:北海道で、特に根室あたりでも、木の高さは高くても15、16m。シベリアでは、30m以上になりますから、シマフクロウのサイズもシベリアの方が小さく見えます。道東の方にもたまに高い木がありますが、フクロウに使いやすいところになかったり、またきれいに穴が開いてなかったりします。だから巣箱というのは非常に有効ですね。

平田:見せていただいたシベリアの風景のような原生的な自然にはすごく憧れますが、北海道にこれを実現しようというのは、途方のないことに思えてしまいます。やはり森と関わり合いながら生活して、その中での折り合いを見つけていくことが現実的な選択だと思います。川も今のまま放っておいてもただ荒廃するだけではありませんか。どんなふうにつくっていくか、デザインと作戦と戦略と、そして市民に何ができるかが大事ではないでしょうか?

孫田:共生あるいは、持続的な生活をするためというのが目的になってくるのでしょうね。そして、その目的を実現するために具体的にどういう目標をつくっていくかということを考えていかなくてはいけないと思いますが、山本さんは木を植えられるとき、ある目標を頭の中で描いておられますか。

山本:森自体が小さいので、拓けているところから衰退が始まるため、それを食い止めることを第一に樹種を変えていったりしています。また、森の回廊つくりを計画し、森から森へとフクロウが安全に移動したり他の動物たちにも利用できるよう、四方八方に回廊を広げることを目標にしています。行政の協力が必要ですし、地元住民が動かないと行政も動けないと思っています。最初は、もっと広い森が必要だと思いましたが、今はもっと狭くてもいいのではないかと感じています。また、河畔林も必要ですが、営巣となると段丘の上が適しています。しかし、根室では段丘は農地になっていて、森をつくるのは離農されないと難しい状況です。

平田:土地の利用に関しては、今までの入植や自衛隊演習地設置の経緯を見ますと、国を挙げてやれば土地利用を変えることも可能かなと思いますね。

高田:野鳥の会ではサンクチュアリーを買っている実績はありますが、資金や抵当権などの問題で、簡単に買えない場所が多いです。今までは、タンチョウの生息地と限定していましたが、シマフクロウなど他の生き物も視野に入れて買っていくべきだと思います。

孫田:森の保護に関しては、トラスト運動が出てきますが、川ではトラスト運動の話は聞かないですね。川を守るために周りの森を買えば守れないですか?

妹尾:守れると思いますね。人間や機械の侵入をどこかでとめる必要がありますよ。例えば、湿原を守るためにはその上流を何とかしないと湿原は衰退していきます。今の川は、先にも言いましたようになかなか直しづらい。直線であっても流れにちょっと変化をつける、水の力だけで及ばないところには木を植えるなど、もっとやれることはあると思います。

孫田:森は変えることができるかもしれないが川はなかなか難しい。しかし、妹尾さんの話では、かなりの制約条件の中でも、変えることができそうですね。それでは、今度は妹尾さんからもっと魚の目線から川を見るとどうなるかお願いしたいと思います。

妹尾:海、川から森に色々なものを運ぶ時に、やはりそれを途中で遮ってしまうものがあると難しいですね。それは、ダムです。ダムに魚道をつけてもなかなか魚にとっては使えるものではありません。昇っていけないということは森に栄養源を供給することが出来ないということになります。クマも越冬するためのタンパク源が必要になりますし、シマフクロウもそうですね。餌と住む場所がなければ生活できないことは、人間の衣食住と同じだと思います。 今の河川改修というのは、水を一気に流そうとする「排水」という言葉につながっているのではないかということを感じます。土砂のコントロール、栄養塩なども含めうまく川の中で機能するような方法をとらないとだめです。そのためには、土砂の動き、動植物の生態などをトータルに理解して、人間は最小限の手立てをとり自由空間を与えることが大事だと思います。

孫田:制限された中で、かなり工夫しないといい川にならないということですね。今までは森に木を植えるというのも川と同じように単一的な機能論で行なってきたと思いますが、総合的に変えていかなくてはいけなくなってきたと思います。今、山本さんたちがどのように木を植えているか教えていただきますか?

山本:二次林に関しては、シママフクロウがミズナラを好むからミズナラばかりを植えるのではなく、その土地々々に合ったような木を植えようと思っています。以前どのような樹種が生えていたかを調べてもらいました。川に近いところにはハンノキ・ヤダチモ、そして、ハルニレ、ミズナラ、ダケカンバとういう順番で川岸から離れていきます。それを考えて植えています。回廊については、まず根が付きやすい、根室市に昔からあったエゾマツを植えています。出来るだけその土地にもともとあったものを主体に植えています。

孫田:最近は、同じ樹種でも遺伝子レベルの話まで出てきて、樹種が同じでも問題ないとはいい切れなくなってきましたね。

山本:専門家からアドバイスも得ました。根室は風も強く、木を根付かせるのが難しいところです。納沙布の風に強いミズナラがあるので、根付くところにはそれを植えていくことにしています。

平田:外来種問題ですね。早く緑を回復させたい、早く魚を増やしたいと良かれと思ってやっていたことが、つい10年くらい前に遺伝子の攪乱や外来種が在来種を駆逐してしまう恐れがあるということがわかりました。それを悔いても仕方ないという部分もあると思います。魚でいえば、サケに関しては北海道の水産行政でも気にしていますね。例えば石狩川のものを十勝川に持っていくことはしていないそうです。ただし、何らかのきっかけで自分の能力以上の距離を移動することは自然界で起こります。侵略的外来種と言っていますが、明らかに自力で移動できる範囲を超えていて、移入された先で影響を与えるものは対策を講じるべきでしょうね。また、なんでも在来種にすることは難しいことがあります。例えば、ガーデニングや都市緑化では、管理しやすい外来種にするという選択肢もあると思います。それに対して社会が合意を諮って皆で決めるといったプロセスが必要と思います。

孫田:誰が判断するか。個々の話をすると対立軸が出てきてまとまらない。そのまとめ役に誰が入るべきなのでしょうか?行政と住民が対立軸に乗ってしまうことがありますが、本当は違うのでないかと思います。行政がやることは、本来公共として住民から委託された役割を果たしているのだから、住民と行政は対立軸にいるべきではないと思うのですが。

Yさん(会場):私は道職員です。現状では、その対立軸両派の議論がなく進められていっていますね。カナダの例では専門家や住民で委員会をつくり決定機関として機能し、実際の執行機関として行政があると聞きました。

平田:責任を誰が取るかということも問題です。市民の要望で行政が実行した時に市民が責任を取るかというと、行政が責任を取っていることが多いです。

孫田:山本さんはシマフクロウを保護する当事者のなることが多いと思いますが、間に入り込むことはありますか。

山本:今道路の関係に関わっていますが、道路をつくったら影響を与えるのは確かですので、出来るだけ影響を与えにくいコースに変更してもらっています。現在、シマフクロウの目標は200羽、これが本当の自然の中で生きていけるようにするのが目標です。そのための棲む土地の確保や魚のたくさんいる河川といった問題が解決されないと永遠にフクロウの数はこのようなものだと思います。

孫田:川の改善でもシマフクロウの保護でも、川や森の空間的なキャパシティをどうやって確保するかですね。今までは行政にお願いしていましたが、それだけではもう進めないですね。

妹尾:いずれの場合にも、私がよくいうのは時間軸です。それを入れないと本来のものは出来ないとわかってきました。先ほどの低ダム群について話しましたが、ちょっと手を加えただけで自然の川が復活してきています。20年の時間が河畔をつくりました。本来は急流で、ハナカジカも棲めなかったのが、低ダムで緩やかになって魚が増えてきています。土砂、水が時間によってどう川を変えていくのか考えないとできあがったものが違うものになります。成功させるためには、川の本質を知ることをコーディネートできる人がたくさん出てこないと、また最悪の川をつくってしまうことになります。

平田:そのようなコーディネーターがそれで生活していけるようなお金の回り方も必要だと思います。例えば林業が今衰退していますが、30年かけて森をつくってもそれが評価されていないからだと思います。生物多様性を含め、生態系を考えた森づくりで林業の技術が評価され、林業に携わる人が出ていることはありますか。

Yさん(会場):北海道で100年前の森を100年かけてつくろうという計画がありますが、林業として評価され、それで食っていけるということは残念ながら非常に厳しいのが現状です。木材価格の下落や人件費の高騰がその主な理由です。北海道の森林の中にも、林業として成り立つ可能性のあるところ、整備すべきところ、保全するところ、そういう一種のゾーニングというものを行い、それを前提に何をやっていくかが重要だと思います。そのゾーニングには野生動物も考慮されますが、私が心配なのは例えば、シマフクロウが一匹いたらゾーニングはどうなるのか。いわゆる林業活動をする場所がなくなるのではないか不安になりますが。

山本:シマフクロウの行動範囲はとても広いので本当にコアになっているごく狭い範囲を守っていただければ林業との共存は可能だと思います。しかし、国有林の方にも説明していますがなかなか納得していただけないのが現状です。

平田:シマフクロウのように希少な動物に対しては絶対的に保護が必要と思いますが、魚釣りなどで魚を利用しながら保全するのはゼロか1かでなく、その中間があると思います。どこまで利用するのかを決めるのかは、非常に広い情報、知識を取り入れなければなりません。その地域で何をしていくか、公開の場で討論して、合意の上で進める仕組みづくりは少しずつ出来ている気がしますが。

孫田:色々な分野からの知見と技術をコーディネートしていくシステムが必要となって、実は自然のことをしゃべっている様で、結局人間の話に帰らざるを得ないですね。平田さんに野生動物の保護管理についてお話いただきたいと思いますが。

平田:マネジメントには、野生生物に与えるプレッシャーを全て取り除くことから、頭数制限まである目標を定めて、それに向かって仕事をします。後者ではどれくらいまで減らしてもいいか、科学的案方法で数を区切って管理しますが、管理にはモニタリングで常に数をチェックして、それをまた目標にフィードバックします。また、その目標の設定には社会学的データ、例えばどの程度の食害だったら受入れられるかという、人間のあいまいな価値観にも左右されます。このシステムのいいところは、いろんな人を巻き込んで議論をしながら対策を決めていけることです。今までは知らなかったといっている間にダムができたりしていましたが、これからそういうことがだんだんなくなっていくと思います。また、フィードバックは終わりのないシステムで維持していくことを含めて持続可能な管理だと思います。

孫田:マネジメントを考える上で基礎的な情報は大事ですね。妹尾さんの言っている本質的なものは何か考える上で。妹尾さんが今やろうとしている、本質を見るやり方とは、今までの調査と違うのですか。

妹尾:今までは河川改修する時には、どんな魚がいるか、という調査だけです。なぜそこにいたのだろう、なぜ棲めるのだろうというのがない。そこまでやらないとダメです。しかし、研究としてはいいのですが、先ほどの話のように食えるか、ということになると難しい。研究で得た定性的な結果をうまく情報として取り入れていければいいな、と思うのですが、未だに定量的な数字がものをいっています。例えば魚が流速50cm/sに数多く生息していた。だから流速50cm/sの空間をつくろうとして、コンクリートの流速50cm/sになる水路が出来ます。しかし、自然状態では一律に流速50cm/sではなく、淵があって、泡が発生して身を守るのに有効であったり、一番先に餌が流れてくる場所があったりするから魚が集まっていたのです。そういう、余分な情報も取り入れないとダメだということが分かります。知識があっても知恵のない人間がつくってもいい物はつくれないことが分かってきましたので、考え直してフィードバックする時期だと思います。

高田:シマフクロウやタンチョウの保護養育事業に携わっていますが、数が増えても今度は住む場所がない。本当は、数を増やすのと同時になぜ数が減ってしまったのか原因を理解して対処しなければならなかったのに、やってこなかったんですね。環境庁の事業でも、直接数を増やすのにつながる給仕や巣箱かけには予算がつくが、土地を買うため、木を植えるための予算がつかなかった。これからは、鳥だけでなく、川や森といったことをされている人たちと総合的な集まりの中でこれからを決めていくべきでしょうね。

妹尾:様々な研究が必要ですが、とても細分化されて、まだ不足している部分がちょっと多いという気がします。

平田:やはり、これで食べていくことが大変というのがあります。公共事業として公的資金を投入するとか、公でやるべきだと思いますが。川も公共財産ですから。それから、専門知識がなくても関わっていく仕組みづくりも必要だと思います。例えばニュージーランドの釣りでは、釣り人がモニタリングし、漁業権を購入した人だけに釣りを許すことによって、個体数管理を行なっています。これに関わることでもっと釣り人が自然保護に主体性が持て意識もあがります。

孫田:このワイルドライフ・マネジメントの考え方は、非常に良いと思いますが、いろんな意味で時間とお金がかかるとも感じます。結局、どこかで価値観を変えていかなくてはいけないということでしょうか。ある目標を立て、時間はかかっても、より多くの合意を得ながら進めていくということですね。そうすると今までの時間の概念とまた違った形になっていきますよね。ここで、ゆっくりペースで進めて行くには、お金の落とすところを直接建設する方じゃなく、途中過程のいろんなソフト部分を担うところになっていくと思いますが、可能でしょうか。

Nさん(会場):北海道の建設行政の職員です。行政でも、ハード一辺倒ではなく、情報提供と一緒に土木的なハードを組み合わせた政策など、大きな舵取りは起きてきています。また行政は、プランニングは効率的に出来るが、モニタリングは不得意な面がありますし、基盤整備もあり程度進んできているので、モニタリングをするという余地も、それを仕事として体系的にお願いする業務も恐らく出てくると思いますよ。

孫田:そういった中で、市民は納税者で最終的なユーザーですから、どうやって市民を巻き込むかが大事になっていきますね。ニュージーランドでは釣り人がデータをとってマネジメントに使っていますが、実際に市民がデータを取れるものでしょうか。

Wさん(会場):私は野外で親子の森遊びなどやっています。どうしても、イベントとしてやる場合では時間は限られますし、業務のようにデータをとるのは退屈します。ですから地道にデータを取るのは難しいと思いますが、調査の内容をわかってもらう意味では、有効だとは思います。

孫田:モニタリングのプロ、コンサルタントのUさん一言お願いします。

Uさん(会場):環境調査というのは、得られた結果に普遍性がなければいけないので、そういう意味では定量的にならざるを得ない面もあります。また、ある事業の特性を知った上で調査するのと、一般の人たちが背景を何も知らずに調査するのでは結果が違ってくると思います。

孫田:「お魚から森を見る」といっても結局ダイレクトに結びつく話ではなくて、流域としてものを考えていくとか、さらに棲息できる空間だけではなく時間軸の中で考えるとか、また、マネジメントにどのように市民を交えながらやっていくかなど、様々な問題があることがわりました。今日の会場で一番若いT君どう思いましたか?

Tさん(会場):人間のエゴで開発してきたり、釣りをしたりしてきて、環境を維持していかなければならないとなったときに、自然といっても最後にはめぐりめぐって人間同士の問題を解決するのが一番難しいのではないかと思いました。

平田:一番大事なのは、「自分達が自分達の川を守るんだ」という意識のもち方だと思います。

妹尾:その意識を持つためには、私は、物心ついた頃から川に行っていましたが、そのような経験も非常に大事だと思います。

孫田:それでは、最後になりますが、お三方に一言頂きたいと思います。

妹尾:この分科会は「お魚から森を見る」というテーマでしたが、お魚の立場でいわせてもらうと、魚からは森が見えないです。色々な建造物がありますし、魚が好きな水がいまほとんど使い古された状態で黄色く濁って海に流れていっている。また、ダムで栄養分を溜め込んでしまっている。少しずつ改善しながらなんとか魚から森が見えるように努力していきたいと思います。

平田:今日一番思ったのはやはりみなさん問題意識をお持ちだということです。今後これをどのようにいい方向につなげていくか、ブリッジの部分をこれからどうつくっていくかが課題だと思いました。その部分でメディアの一員としてお手伝いできることがあれば、是非したいと思います。

高田:シマフクロウやタンチョウや他の生き物にとってやはり森は必要で、元の森に戻していかなければならないと思います。鳥の関係者だけではなくて、市民の方の協力というもの必要ですし、広く一緒になってやっていきたいと思います。

孫田:今回、「お魚から森を見る」というテーマでお話しいただきました。鳥や魚や森は、しゃべるわけではないのでそれを人間が代弁しなければならない。代弁するというのは、ある価値観を持つということで、その価値観のとらえ方は人それぞれ違うと思います。結局、自然環境を人間の目から見ていろいろな評価していくというのは、いろいろな価値観の調整をしていくことかな、と思いました。最後にお三方がおっしゃったように、まだまだこれからやることはあるし、せっかくこのような話し合いをしたことを次のステップにはどう具体化していくことを今度は考えていかなければならないでしょう。今日出てきた課題はすぐには解決出来ませんが、その課題に向かってこんな動きをした、始めた、というお話が聞けるといいですね。今日は、本当に長時間にわたって、ありがとうございました。

当日のアシスタント 大野百恵さん・薗田里絵さん
テープ起こし    柴田未知さん
編集       薗田里絵さん


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