レポート目次

  1. はじめに
  2. 河川横断構造物について
  3. スリット化による既設ダムの改善
  4. その他の既設ダム改善方法
  5. 今後の課題
  6. 感想
  7. 謝辞
  8. 参考資料

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5.今後の課題

これまで無数に造られてきた不透過型砂防ダムの様々な問題が明らかになった今、砂防ダムのあり方を見直す必要性が高まっている。一般的に急勾配で流れが速く土砂流出量の多い日本の河川において、砂防・治山ダムが災害防止の重要な役割を果たすことは確かだろう。しかし、中村講師が指摘したように、ひたすらに土砂を止めることだけに専念しているのでは、ダムが何基あっても足りない。山から流出した土砂が、川を通じて下流そして海へ供給されるのは自然現象であり、水生生物にも人間の営みにも必要な作用である。したがって、上流から下流への連続性を保つことは河川環境管理の前提とするべきである、という考え方が徐々に広まってきているようだ。

スリット化はその連続性を生みだすための一つの手段だが、セミナーでの現地見学からわかるとおり、スリット化の効果はスリットの大きさや河川環境によって変わってくる。そのため、ある河川で行ったスリット化の方法を、別の河川でそのまま利用して同じ結果が出るとは限らない。それぞれの場合において、既設ダムがどう河川環境に影響を及ぼしているのか、スリット化が本当に必要なのか、どのダムをスリット化するのか、どの形態のスリットが適しているのか、を評価していく必要がある。評価基準を定めるためには、まず目的を明確にしなければならないだろう。しかし、現状でそれができていないということが、セミナーの議論の中で読み取れた。

砂防・治山・生態系の保全などのダムの切り下げに期待される複数の目的を、スリット化のみで達成することは難しい。岡部講師は、多様な目的の達成には多様な手段を用いる必要があると述べた。それには、どういう場合にどのような方法を用いるのか、を定めるための方法も確立していかなければならない。

今まで、河川の構造物は不変的なものとして、一度造ればそれで終わりと捉えられていたが、砂防ダムの効果は決して永久には続かない。中村講師は、常に変化する自然を前に、はじめから百年後にも通用する構造物を建設しようとするよりも、造った後も構造物の評価を続け、変化に適応させていく管理(Adaptive management)をしていくべきだと主張した。現在、河川工学において、自然に逆らうハードな手段に頼る河川管理の問題点を認め、自然の力を最大限に利用した環境負荷の少ないソフトな手段へ切り替えていくことが迫られているのではないだろうか。