2.河川横断構造物について
2.1 横断構造物の種類と目的
■ 貯水ダム
水を貯めるのが目的。家庭・農業・工業用水の供給、水力発電、流水量調整による下流での洪水の防止に利用される。高さ14m以下のものは堰堤という[i]。
■ 砂防ダム
上流に多く造られ、土砂流出を制御するのが目的。堆砂により河床勾配を緩和して上流の侵食を軽減、また土石流などの災害や下流の貯水ダムの堆砂を防ぐ。現在、日本全国では土石流災害危険指定箇所が約8万あり、一ヶ所につき10基前後の砂防ダムが設置されている。高さ7m以下のものは砂防堰堤という[ii](注1)。砂防ダムは、土砂を殆どくい止める不透過型と、ある程度の土砂流出を促す透過型に分類できる。透過型には、スリットやネットでつくられた開口部を洪水時に土砂が閉塞することで土砂を捕捉する閉塞タイプと、堰堤による堰上げで水流・土石流の運搬エネルギーを減少させることで土砂を捕捉する棚上げタイプがある。コンクリート製や鋼製のものなど、砂防ダムの様々な構造は、長野県姫川砂防事務所のサイトで紹介されている[iii]。
■ 治山ダム
砂防ダムと形態は似ているが、土砂流出制御よりも、貯めた土砂で山脚を安定させるのが目的。河床勾配を緩和し堆砂上に植物を定着させることで、山腹の侵食を軽減する。
■ 落差工
高さ約2m前後の段差で、河床勾配を緩和し侵食を防ぐのが目的。
2.2 不透過型砂防ダムの問題点
■ 堆砂容量に対して低い土砂調節量
これまでの砂防ダムは、平常時堆砂勾配が元河床の勾配の2分の1になるように設計されている これまでの砂防ダムは、平常時堆砂勾配が元河床の勾配の2分の1になるように設計されている[iv](注2)。この勾配までの堆砂にかかる時間はダムによって異なるが、10年程度で満砂する場合が多く、中には数回の大雨ですぐに満砂してしまうものもある。平常時堆砂勾配以下の土砂は、山脚を安定させる働きはあっても、出水時にダムが一時的に貯めることのできる土砂量(調節量)には含まれない(図2)。調節量は全堆砂容量の約10%、平常時堆砂より上に堆積した部分のみである[v]。つまり、満砂した砂防ダムは、洪水時に増えた土砂を留めるという本来の目的を十分に果たしているとは言い難く、また袖抜けや底抜けといった崩壊の危険も高まる[vi]。浚渫による貯砂機能の復活も可能だが、その代わりに上流に新たなダムが造られることの方が多い。。この勾配までの堆砂にかかる時間はダムによって異なるが、10年程度で満砂する場合が多く、中には数回の大雨ですぐに満砂してしまうものもある。平常時堆砂勾配以下の土砂は、山脚を安定させる働きはあっても、出水時にダムが一時的に貯めることのできる土砂量(調節量)には含まれない(図2)。調節量は全堆砂容量の約10%、平常時堆砂より上に堆積した部分のみである[v]。つまり、満砂した砂防ダムは、洪水時に増えた土砂を留めるという本来の目的を十分に果たしているとは言い難く、また袖抜けや底抜けといった崩壊の危険も高まる[vi]。浚渫による貯砂機能の復活も可能だが、その代わりに上流に新たなダムが造られることの方が多い。
図2:満砂した不透過型砂防ダムの構造(断面)(2)
■ 下流での侵食促進
砂防ダムは、下流への土砂流出を止めることで、下流での堆積を抑制し、河床・河岸・海岸部の侵食を進行させる。その結果起きる河床低下によって次のような問題が生じる。[vii]
- 橋脚の根元が侵食される。
- 護岸工事で整備された河岸が崩落する。
- 農地灌漑用の堰を高くかさ上げしないと水が引けなくなる。
- 河畔林の樹木が不安定になり、増水時に根元から流されて被害を拡大する。
- 魚道の入り口が高くなりすぎて魚が上れない。
■ 生態系への影響
不透過型ダムは上流から下流への河川の連続性を絶ち、ヤマメ・イワナなどの魚の移動を妨げる。たとえ魚道が設置されていても、勾配が急で流れが速すぎるものや、魚の休む場所が十分にないものは、遊泳力の弱い魚では上ることができない。行動範囲を狭められた水生生物は、近親相姦で遺伝子の多様性を失い絶滅の危険にさらされる[viii]。
ダムによって土砂と共に海への栄養分の供給も妨げられ、魚・貝・海草などの成長に悪影響を及ぼす。「磯焼け」といって生物が存在できない海になることもある[ix]。
■ ダムに蓄積された未分解の有機物
砂防ダムの中には、満砂せずに水が貯まるものもある。山形県飯豊山系に多く設置されたダムがその例である[x]。本来、森林から供給された落葉・落枝は分解されながら下流へ運ばれるが、ダム湖の底では未分解のまま堆積しヘドロを形成する。有機堆積物は水質悪化や異臭の原因になり、ダムの切り下げで一気に放出された場合は下流・沿岸域まで被害を与える。
■ 骨材(建設用の砂利)の不足
以前は川が運搬してきた骨材を用いていたが、砂防ダムによりそれが不可能になった現在は、山や海底を削って骨材を採取している。これにより山や海の環境が悪化している。近年では骨材の国内供給が不足し中国から輸入するまでとなった[xi]。
補足:このレポートを読んでくださった長野県姫川砂防事務所の松本氏に次のようなご指摘をいただいた。
(注1)最近では高さに関わらず、流出土砂の捕捉・調節や不安定土砂の二次移動の抑制を目的として造られるダムを砂防堰堤という。同じ形状でも、流出土砂の調節効果がなく、縦侵食を抑制し渓床堆積物の再移動の防止や護岸を目的としたものを床固工(高さはたいてい5m以下)と区別する。[戻る]
(注2)砂防ダムが、洪水時の流出土砂による河床の上昇よりも、土石流が及ぼす人的被害の方を想定して造られた場合、平常時堆砂勾配は元河床勾配の2分の1ではなく、3分の2になるように設計される。この時、「調節量」ではなく「捕捉量」という言葉を使う。透過型にすることで、元河床勾配の2分の1までの容量を「捕捉量」に追加できる。[戻る]