ARCS TECHNICAL REPORT No.1-6


市民参加の森づくりに向けて

森づくりの場と市民が森をつくる技術そして活動する市民たち

森をつくる場
市民が森をつくる技術
森とつきあう人々


森をつくる場

森づくりはこれまで森林で、と考えられてきました。もともと森林であったところで木を切ってしまったので木を植えるという考え方です。大学の造林学の教科書をみても、まずは森の切り方から始め、木を植えるという作業はその後に出てきます。森のないところにゼロから森をつくるという発想は少なかったと思います。

 数少ない例としては、石狩湾新港遮断緑地や苫小牧東部工業基地遮断緑地があります。これらはもともと農地や原野だったところに、工業基地や港と周辺地域とのバッファをつくるために森をつくったところです。石狩湾新港遮断緑地では1977年頃から森林の造成を始め、今では成長が速いドロノキは樹高20メートルを越え、立派に森といえる姿になっています。かつての北海道は森と湿原の島だったようです。ここ百数十年の間に森の面積は70%に減ったといいますから、長い目でみれば、森の復元ということにはなるのでしょう。

 森づくりの場は、当然これまでのとおり木を切ってしまった林地があります。国有林や道有林を利用して、市民が森づくりをしていく運動も数多く行われています。例えば、1997年に苫小牧市の国有林で発生した竜巻による風倒木の被害地をボランティアで植林したことなどもその一つです。このときは単に植林するだけではなく、どんな方法で森を復元していくかについてのディスカッションもしながら森づくりを進めていったということです。

 これからの森づくりの場は、このような林地だけとは限りません。様々な公共事業の場でも森づくりが行われようとしています。最近の事例をあげると、十勝地方での「治水の杜」づくり事業というものがあります。冠水被害を軽減するために、堤内側(川側ではなく住宅地や農地などの側)に河畔林を造成しようとするものです。道路でも道路防雪林をはじめとする森づくりが始まっています。これまで森づくりはやや人里離れた場所で進められることが多く、必ずしも多くの人々の関心を集めるまでには至っていませんでした。しかし公共事業の中で森づくりが行われることによって、森づくりがより身近になりつつあります。

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市民が森をつくる技術

 これまで木を植えるには、苗木を生産者から買ってこなければなりませんでした。スーパーなどで売っている代物ではありませんから、どこから入手するか、から始めないと木を植える算段ができません。ですから市民参加の植樹といっても、行政がお膳立てをして初めて木を植えることができる、ということが多かったようです。いわゆる植樹祭です。でもこれだけでは市民による森づくりはできないでしょう。近年市民自らが主体的に森づくりに取り組むことができる技術も研究されてきています。連載第一回に紹介した方法をもう少し詳しく紹介しましょう。

○生態学的混播法

 北海道工業大学 岡村俊邦教授が研究されている方法です。過去にその地域に育っていた樹種数十種を混ぜて植え、自然淘汰の末にその土地に適した樹木を残すという考え方に基づく方法です。

 まず種を採るところから始めます。種は植える地域の残された森林から採取します。シラカンバなどの軽い種はそのまま播いたのでは発芽率が低くうまくいきません。採ってきた種は発泡スチロールなどの播種床で発芽させます。そして一年後にポットに植え替えます。オニグルミやミズナラなどの重い種はそのまま播いても発芽率が高いので、苗をつくらずそのまま現地に播くようにします。ここまでが下準備です。

 次に、植える場所では直径約3メートルの円に採石などを敷き詰めます。その周囲にヤナギの埋枝を行い、採石を敷き詰めた円内に重い種を播いたり、あらかじめつくっておいたポット苗を植えます。一つの円内に十種類ほどの苗を植えます。ヤナギは成長が速いために、植えた苗を保護する役目を果たします。また普通の植林などと比べて小さな苗を植えるので、周りに草が生い茂ると苗は競争で負けてしまいます。採石は草が繁茂しないようにするために敷いています。このほか土壌中の水分の保持にも役立っています。

 最終的にはこの円内に1本程度の木が残ればよい、ということになっています。30年後、40年後を目途にした森づくりです。

 すでに道内各地で、この方法による森づくりがはじめっています。なおこの方法は「住民参加による自然林再生法ー生態学的混播法の理論と実践ー」として出版されています。本の問い合わせ先は、(財)石狩川振興財団(011-242-2242)です。また岡村教授のホームページをご覧下さい。

写真-1 

浦河町での生態学的混播法による 植樹風景

○カミネッコン

 北海道大学名誉教授 東三郎先生が研究されている再生段ボールを使った植木鉢・カミネッコンによる植林方法です。

 カミネッコンは再生段ボールを組み立てて植木鉢にするもので、鉢を形作る段ボールの中詰め材料には古新聞や貝殻、低品質モルタルなど様々なものが使われます。いずれも将来は腐ってしまったり、形が壊れてしまって土に帰る材料を使っています。

 植えるときには、この植木鉢を置くだけです。普通木を植えるときには、植穴を掘ってそこに植えるのですが、この方法はただ置くだけなのです。植木鉢の底はただの段ボールですから、いずれ腐り根は土の中に伸びていきます。また鉢も土に帰るので、ゴミを残すことにもなりません。さらに、鉢のお陰で土の面よりも高い位置にあるので、草との競争にも負けません。生態学的混播法と同様に植えた後手をかけない植樹方法です。

 この方法を使って雪中植林も行われています。木を植えるのは春や秋が普通です。でも本当は木が休眠している間が一番いいのです。雪を掘り起こして土を出して、このカミネッコンにつくられた苗をそのままおいて、もう一度雪をかけて寒さからの保護材にします。

 植穴を掘らない、雪の中で植える、などこれまでの常識とはちょっとかけ離れていると思われるかもしれませんが、成績は上々です。なかなかの優れものだと思います。

 カミネッコンは市販されています。カミネッコンを見てみたい、使ってみたいという方はエコネットワーク(011-737--7841)までお問い合わせ下さい。

写真-2

カミネッコンをつくっているところ。誰でもが簡単につくることができる。

写真-3

カミネッコンに苗を植え付ける

写真-4 

恵庭市恵み野中学校の生徒達による雪中植林の様子

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森ととつきあう人々

 直接木を植える作業はしないけれども、森をつくることもあります。里山といって比較的住んでいるところに近い森(奥山ではなく)で、森の手入れをしながら森をつくっていこうとする人たちも多くなってきました。そんな動きを少し紹介します。

○育林コンペ

 苫小牧の苫東の林で進められています。主催している草苅さんのホームページを借りて紹介しましょう。

 育林コンペというのは、期間と場所を限定して苫東の雑木林を保育し、その仕上がりの美しさ、作業の楽しさなど林のトータルな完成度を競おうというもので、1997(平成9)年の10月に始めた地域の活動です。場所は苫東の東側の緑地(備蓄基地の北側で、かつて平木沼緑地と呼んだところ)。期間は平成9年10月から平成11年11月まで。林の概況はコナラを主体とした広葉樹二次林で直径6cm〜25cmくらいです。6グループが参加しており、一グループごとの面積は約五千平方メートル。コンペの方法は、最低限の保育の決まりを確認後、ある程度自由度を持ってレクリエーション的にすすめています。コンペの評価基準は厳密なものはできていませんが、健全で親しみやすく、より美しいと感じられる林に仕上がっていくと自ずと高い評価がついてくるでしょう。基調は「継続する快適な林」です。

 林の間伐を進めながら、そこから生み出された副産物の積極的な利用も図っています。リースづくりや炭焼きなどもしています。

 育林コンペは、その後各地での新たな動きの萌芽となり、現在は発展的に解消しました。主催者である草苅さんは、ここでの森づくりの傍ら、森のホスピタリティなどについても思索されています。ぜひ草苅さんのホームページをご覧下さい。

写真-4 

育林コンペで手を入れた林(左)と手入れをしない林(右)の違い

写真-6

育林コンペの最中に炭焼きも…

○ときわ里山倶楽部

 これは札幌市南区の里山を舞台に続けられているものです。Kさん所有の3ヘクタールほどの雑木林を使わせてもらっています。畑仕事や土いじり、林の手入れを楽しみながら、人と自然が共に生きていく術を学びたい、特に都市と近郊の自然との共生について思いを巡らしてみたいといった人たちが参加しています。

 ほだ木作りや畑の開墾、雑木林のつる切り、下草刈りをしたり、炭焼きの予定もあります。

○スコップ倶楽部

 札幌市清田区を中心に活動しているグループです。平岡公園で生態学的混播法を使って森づくりを進めるほか、ビオトープマップをつくったり、子供たちの野外活動を企画したり幅広い活動をしています。地域のお母さんたちが活動の中心です(確か今は名前が変わったはずです。その後、あまりコンタクトしていないので、詳しいことはわかりません)

○里山をつくろうプロジェクト

 帯広の森を活動の舞台にしています。「エゾリスの会」を中心に、森の間伐などの手入れをしているほか、炭焼きや薫製づくりなどもしています。直接関わっていないので、詳しいことはわからないのですが…。

○北の里山の会

 私も所属している札幌のグループです。札幌市の都市環境緑地の一つ、有明都市環境林を舞台に活動しています。主に40〜50年生のカラマツの間伐に挑戦中です。また、広葉樹林ではササ類の刈り払いによる天然更新の促進、キノコづくりなどにも取り組んでいるところです。木を植えることだけが森づくりではなく、森が変わる方向性を探してその手伝いをすることも森づくりの一つの方法だと考えています。詳しくは北の里山の会のホームページをご覧下さい。

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  六回にわたる連載も今回で最後です。木を植える、育てる、森づくりなどについて、その技術的課題について書いてきました。やや駆け足でした。少しでも多くの方々に、木とのつきあいに興味を持っていただければ幸いです。


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