木を植えるとき考えなければならないこと
植栽計画をたてるために
単に木を植えるといっても、様々な目的があります。目的に添った木を選ぶことが必要です。そして、さらに考えなければならないことは、選んだ木が生育できる環境条件にあるかどうか、です。
いつから計画を考えはじめるかも大事なことです。今日考えて、明日植えるぞといっても、苗木があるかどうかわかりません。種類によっては、種を取ることからはじめて、何年も準備期間を要することもあります。
空間的思考と時間的思考とが求められます。
木を植える目的は?
植える木を選ぶ
植える木のサイズ、環境圧との関係
植栽計画はいつからはじめるか
木を植えるといっても様々な目的があります。
庭などで木を植えるのは、もっぱら観賞するためでしょう。きれいな花が咲く木や紅葉が美しい木などがが喜ばれます。街路樹などもやや近い性格があり、道路の景観づくりや日陰をつくるために植えられます。林業で木を植えるときには、木材をとるためです。比較的成長が速く、木材として価値のある木が植えられます。また海岸地帯などでは飛び砂を防ぐために樹林帯をつくります。塩分を含んだ風に対して抵抗のあるクロマツやカシワなどが植えられます。吹雪のひどいところでは、吹雪の害が道路や鉄道に及ばないように樹林帯がつくられます。最近では川の自然を見直そうという動きから、河畔林をつくろうという試みも行われています。これは人間よりも川という空間を使う鳥や昆虫、魚のための樹林帯です。
木を植える目的は様々ですから、植える木の種類も当然変わってきます。植え方も違うのです。まずは、植える木の種類を決めるのにどうしたらいいのか、考えてみましょう。
みなさんが最も身近にしているのは、庭でしょう。ここはたいがいは住宅地の中ですから、あとでは話すような環境圧の心配はありません。しかも個人の所有地ですから、何を植えてもよいということになるでしょう。ほとんど趣味の問題です。結構はやりすたりがあるようで、私の住む団地ではひと頃(ナツツバキ本州の東北以南に分布する木。北海道では庭木として用いられている。)がはやっていました。
次に街路樹や公園などの公共空間で植える木を選ぶときのことを考えてみましょう。公共空間では、個人の庭と違いますから、趣味で、というわけにはいきません。機能や周りの景観との兼ね合いなどの吟味が必要です。この辺を勘違いしている設計担当者が実は多いことが問題なのです。図鑑を片手に、あれがいい、これがいいとぶつぶつ言っているのではないかと思われる筋がよくあります。
公共空間で木の種類を選ぶときの考え方をフロー図として示しました。あるところで街路樹を選ぶときにつくった資料です。ここでは農村地帯の道路に街路樹を植える計画をしました。街路樹によって道路の景観をよくするとともに、冬には視線誘導の機能も持たせようと考えました。都市の中の道路と違い、周りの風景とのなじみやすさをもたせるにはどうしたらよいかが一つの課題でした。このことからやみくもに外国産樹種や本州からの移入樹種を植えるようなことはやめました。こんなことをすればその辺にはない奇異な風景ができあがってしまうからです。周りをみて下さい。自然に生えている木はどんな種類ですか。図鑑にでている珍しい木を植えたら、どんな景観になるのか、想像してみて下さい。
次に考えたのは、その場所の気候風土になじむかということです。つまり風に対して弱かったり、寒さに対して弱かったりした場合には、当然うまく育たなかったり枯れたりします。ひょっとしてうまく育てることができるにしても、あとから手がかかります。こんなことから、もともとその土地に生えていた種類(自生種といいます。)を植えることにしました。
ここまではある程度の知識がある人ならば誰でもが考えることだと思います。次に見落としてならないのは、その木が大量に入手できるかどうかということです。仮に植栽するときには十分な本数があったとしても、もし一部が枯れてしまって補植(枯れた木を取り払い改めて植え直すこと)しなければならないようなとき、今度は入手できません。市場性が大事なのです。
多くの種類の中から、以上のような条件で消去法で木を選んでいきます。実際この方法でやってみると、最後に残る木の種類は数種類になってしまいます。先ほどのフロー図を書いたときには、イタヤカエデ一種類になってしまいました。
木を植えたとき、誰しもがある程度の形がみえ、機能を発揮することを期待します。庭などはその典型でしょう。ところでどのような場所でも、庭のようなことが可能かというと決してそうはなりません。
この連載の二回目・三回目で環境圧の話を書きました。この環境圧の程度によって、最初から大きな木を植えることができるかどうかが決まってきます。模式的ですが、その関係を図に表してみました。環境圧の小さなところ、つまり庭のようなところ、では最初から大きな木を植えることが可能です。住宅が吹きっさらしの原野ののようなところにあるのでしたら話は別ですが、一般には市街地を形成し建物の陰で風なども弱まっています。またそう面積が大きいわけでもないでしょうから、多少土が悪くても土を入れ替えてやることもできます。目の前にあるのですから、普段から手入れもできます。庭を、木が育つのに適した条件に変えてやることが簡単なわけです。
一方、庭などよりも面積が広い公共空間を考えてみましょう。公園でも河畔でも道路でも結構です。庭に比べて広いということから、風の通りがよくなります。木にとって風が環境圧として作用することはすでに書きました(一九九九年二月号)。かいつまんでいうと、植えたばかりの木は水分や養分を吸収するのに必要な細根が十分に伸びていないのに、葉から風で強制的に水分を吹き飛ばされてしまうため、水分需給のアンバランスが生じ木が弱ってしまうということでした。風のあるところでは先枯れしている枝が目につきます。これはある程度の大きさ(樹高三メートル程度以上)の木を植えたときによく起こります。小さなサイズの木(樹高五十センチメートル程度)を植えると、このようなことは少ないようです。小さなうちは、根をほとんど無傷のまま植えることができるので、水分の需給アンバランスが生じにくいからです。
ほかの環境圧に対しても、小さなサイズの木の方が環境に適応しやすく、植えても失敗しないようです。こんな例えはちょっとピントはずれでしょうか。もしあなたが初めての外国へ突然連れて行かれたらどうなりますか。まるでことばが通じないことから、きっとすごいストレスが溜まるでしょう。高じると病気になりますよね。これが小さな子供だったら、最初はことばが通じなくても、大人のあなたよりも適応するのが速いでしょう。たぶん木もこれと同じだと思います。木の場合は育てる場が苗畑という環境条件のよいところなので、よけい条件の厳しさはこたえることになるのでしょう。
もっと環境条件の厳しい海岸部ではどうでしょう。ただの風ではなく塩分を含んだ風が葉を直撃します。このような場所では単に小さいサイズの木を植えるだけではなく、本数も多くなければなりません。植えた木々がお互いに保護しあうような形が必要ですし、また植えた木が全部育つとは限りません。風当たりが弱くなるような保護工も必要になってきます。
まとめると次のようにいうことができます。環境圧が大きいほど保護工は一時的なものではなく長い期間必要になるし、植える木のサイズも小さくしなければなりません。そして、安全をみて高密度に植えなければならないのです。環境条件が穏やかであれば、この反対のことがいえます。
現在の公共事業のシステムの中では、植栽計画は事業年度と同じ年度(いわば植栽工事の直前)か、よくて前の年度に行われています。本当は、もっと早くからすべきなのです。なぜならば木は、工場の二次製品ではなくて生き物なので、今日発注して数週間後に手に入れることができるというしろものではないからです。街路樹クラスの大きさの木を育てるのには数年から十年程度かかるので、計画しても実際には流通していないということがままあります。本来、木を植える計画というのは、苗畑で苗木を育てる時間も考えなければならない作業であり、今年植える場所をその何ヶ月か前に計画するというわけにはいかないのです。
私は植栽計画を行うとき、極力自生種で計画・設計するように心がけています。北海道の景観形成には、もともとその場に生えていた種類を使うということが欠かせないと考えるからです。しかし北海道では、必ずしもたくさんの種類の自生種を養成しているわけではありません。実は私も、計画してはみたものの実際に木を入手できないことがわかり、別の種類に変更したことが何回もあります。ただ現在の公共事業のシステムの中では予約生産のようなことができないため、計画時点であるものだけを使わざるを得ないのです。悩みの種です。
漫然と、植栽計画をたてるときに考えなければならないことを書いてきました。植栽計画に関するテキストは、本州方面では使えるというものはありますが、北海道バージョンはまだありません。私の乏しい経験の中から気づいたことを書いてきました。もっと体系立ててまとめる必要があると思うのですが、まだ力不足でこれが精一杯です。こんなことを議論する場が増えてくれればと願っています。
計画論に関してはこのような現状ですが、実施する方は待ってはくれません。次回は、新しい植栽技術の方向性や市民参加型の緑づくりついてまとめることにしたいと思っています。
参考文献
帯広開発建設部・日本データーサービス(株),(1993),一般国道241号帯広北バイパス植樹計画 説明書
北海道土木部河川課(1993),河畔林植栽の手引き(案)