環境圧を知る(土壌・その他編) 前回は、環境圧として主に気象現象に起因するものについて書きました。環境圧と呼ばれるものは表のように大きくは五つの要因に分けられます。今回は気象以外の環境圧、土壌や水・生物、そして人間が与える環境圧について書いていきます。
土の中ではどうなるの
水害?
植えた木は動物達の食料?
競争社会の中で
人も害を及ぼす
◎木の根はどこまで伸びる?
木は種類にもよりますが、高木類と呼ばれるものは樹高が二十メートルを越します。それではその木の根はどこまで地中に伸びているのでしょうか。
杭で考えてみましょう。もし木が杭と同じような構造だとしたら、根は基礎としてその1/3程度の深さが必要になってきます。仮に樹高が20メートルあるとすれば、深さ6メートル以上の根が必要だということになります。本当にそんなに深いと思いますか?実際に根元を掘ってみると、せいぜい50センチメートルから1メートルというところでしょう。根は深くは入っていきませんが、木が上に伸びるとともに横方法に伸びることによって、その大きな体を支えます。木の根の伸びる範囲は、枝が伸びているのと同じぐらいだといわれています。(図-1)
図-1 樹木の根の伸び方と作工物の基礎の違いの模式図
2)より
写真-1は植栽したニセアカシアの根元の断面です。下方向に伸びるよりも、横方向に根は伸びています。
写真-1 横方向に伸びている
ニセアカシアの根
◎木にとって土は必要?
最近は屋上緑化など人工地盤への植栽も行われるようになりました。必ずしも土でなくとも木を育てていくことはできるようです。しかし、土に植えるというのがまだ一般的でしょう。木にとって土とはどんな役割を果たすのでしょう。先にも書きましたが、土はまず体を支えるために根が伸びるための空間です。さらに土は養分や水分を供給してくれるものでもあります。このように木にとっては大事な存在ですが、その性質によっては木の成長を妨げる要因になります。
◎土を掘ってみよう
木を植えようとする場所の土をスコップで掘ってみて下さい。森の中のようにフカフカした感じの場所や、火山灰地の採取跡地のようにカチンカチンの場所など様々だと思います。深さ三十センチメートルほど掘って下さい。その断面に親指をあて、押してみて下さい。親指の第一関節まで入るようであれば、木を植える土壌として、堅さについてはクリアしてます。もし指のあとはつくけれども入っていかないような状態であれば、木の根の伸びは悪くなります。さらに空間的に伸びづらいというだけではなく、通気性・透水性も悪く、その活動も妨げられます。
土を掘ったとき、スコップに土が粘り着くようにしてくっついてくることはありませんか。このような土は粘性の高い土で、粒径の細かな粘土が多く含まれています。このような土は、乾燥するとガチガチになり、水分を含むとドロドロになります。このよういな土は、土の粒子と粒子のすき間が水で埋められているため、空気の流通が悪くなっています。根は呼吸していますから、必要な酸素を得られなくなります。また養水分の吸収を阻害する炭酸ガスが増加するため根の発達は悪くなります。
◎どんなところに木をうえたらいいの
これまで私が経験した範囲では、粘土を多く含む土ではあまり木は良く育っていません。あるところでエゾヤマザクラの並木の調査をしたところ、植えた場所の土の性質によって成長が違うことがわかりました。地山は重粘土地帯で、地山に植え穴を掘り客土をしたところでは、植え穴の中では根が伸びていましたが、その外側には広がっていませんでした。根の成長が悪いので、当然上にも伸びていません。生育状態の良い木の根元を掘ってみると、礫がたくさん混じっていました。そこはもとの道路敷で、アスファルトを剥いだところには路盤材の砕石が残っているところでした。水はけも良く、通気性も良いことから根が発達していると考えられました。
このような経験から、重粘土のところでは礫層をつくって植栽したときもあります。今のところ礫はマルチングの効果も発揮し、雑草(あまりこの言葉は使いたくなのですが)の繁茂も抑制され、木は順調に育っています。(写真-2)また水はけの悪い土地に木を植える時には、通常の植え穴を掘って客土をして植えるという方法ではうまくいきません。植え穴の部分は確かに通気性のよい土に置き換えられていますが、まわりには水が抜けていきません。結局はバケツの中に客土をして植えたのと同じ状態になり、常に過湿な状態におかれ、木はやがて衰弱していきます。
これまでの経験からみると、植えた直後を除いては、乾燥で木が枯死してしまった例は少ないようです。土が堅くて根が伸びきれないことや、過湿で衰弱するという例の方がずっと多いようです。
写真-2 礫を敷き植えた苗木
川のそばや湖などの水位変動ある場所では、木にとっても水害の可能性がでてきます。
川のそばでは、最もひどいときには基盤そのものが流出して、木もろとも流されてしまうことがあります。流されないまでも、大きく土砂を被ったり、流れてくる土砂が木にぶつかり大きく樹皮をえぐられたりします(写真-3)。これなども環境圧といえるでしょう。
写真-3 土砂災害の後の河畔林
普通は土砂に埋もれてしまうと、多くの木は枯死します。木の種類によっては土砂に埋没しても生きていく木があります。不定根といって、埋もれてしまった幹の部分から根が発生してくるような性質をもった種類の木です。ケヤマハンノキやヤナギ類は不定根が発生しやすい種類として知られています。写真-4のように幾重にも不定根が出る場合もあります。これはその場所での何回かの土砂堆積現象に対応しています。
写真-4 ケヤマハンノキの不定根
また木は長い間冠水しても衰弱していきます。ダム湖岸などの人為的に水位変動を起こすような場所では、冠水時間が長くなる場所では木は育ちにくくなります。根が呼吸できなくなるからです。木そのものが完全に水の中に入ってしまうような場合には、光合成ができなくなり、枯死してしまいます。
最近ようやくダム湖岸などでの緑化手法も開発されてきました。冠水に対して耐性のあるタチヤナギやエゾミソハギ(これは多年草)などを用い、水位変動にも耐えうる工種と組み合わせて湖岸の緑化が図られています。
森の動物達が来るような場所では、植えた木が彼ら(彼女ら)の食料になることも多々あります。
エゾシカがオヒョウを選択的に摂餌することはよく知られています。最近は農業被害や林業被害の多さにも着目されるようになってきました。植えた木を見ていると、どうもある樹種を選択的に食べているようです。あるところではヤナギ類が選択的に食べられ、まるで垣根のように高さがそろってしまったこともあります。でもその直ぐそばのケヤマハンノキには見向きもしないのか、全く食痕がみられないということもありました。餌がある程度確保されているときには、食害で壊滅的な打撃を受けることはなさそうですが、こちらの意図した森づくりからは方向がずれてしまうことがあります。
木を食べるほかの動物としては、ノネズミ類やエゾユキウサギがあげられます。ノネズミ類は冬に樹皮を食べます。小さな木だと根元を一周するように樹皮を食べられてしまうので枯死してしまいます。写真5は枝をすっかりたべられてしまった様子です。エゾユキウサギは主に冬芽を食べます。鋭い刃物で切ったような食痕が残ります。木そのものが枯れることはありませんが、その年伸びようとする芽が食べられてしまうのですから、成長には影響を及ぼします。
写真-5 ノネズミ類の食痕
動物たちの中にはドングリなどの木の実を食べるものもいます。木にとってはせっかく実らせた子孫を食べられてしまうことになります。でもよくしたもので、動物達は全てを食べてしまうわけではなく、運んだ木の実をそのまま忘れてしまい、そこから芽が出ることもあります。結果的に木の勢力が拡大したことになります。きっと共生的な関係が築かれているのでしょう。あながち害だけとはいえないようです。
植物は光を求めて上へ上へと伸びます。もちろん隣り合った木同士の競争もありますが、その前にまわりの草と競争しなければなりません。小さな苗木のうち、まわりの草が木に覆い被さるようになると、木には光が当らずまわりの草に負けてしまいます。やがて枯死します。この競争に勝ったものが大きく伸びていくようになるのです。写真-6には草しか見えないようですが、中には木が植えられています。このような状態になると、木は草との競争に負けてしまいます。
写真-6 防雪柵の影響で風が弱まり
草本も繁茂している様子
地上部だけの競争ではありません。根も競争しています。例えば木を植えてまわりを芝にします。芝の根は木の根よりも浅く地上部に近いところにあり、絨毯のようにびっしり生えています。上から供給された雨水や養分などは、芝の根にとられてしまい木の根まではまわってきません。この競争の結果、木は弱まります。木のまわりにはできるだけ芝を貼らないようにすることも大切なことです。
人間が木を植えて育てていくのですが、この過程で知らず知らずのうちに木にストレスを与えていることがあります。
大勢の人間が木のまわりを踏み歩くこともその一つです。土を踏みつけて歩くことが多くなると、土が硬くなります。土壌のところで書いたように、硬すぎると根の成長が悪くなります。また土が掘れて根が浮き上がったりします。
良くしようと管理しているときに害を与えてしまうこともあります。下草刈りをしているときに小さい苗木の幹を切ってしまったり、大きな木の根元の樹皮を剥いでしまったり、というようなことです。小さな苗木の場合には枯死に結び付くことが多くなります。大きな木の場合には、そこから菌が入り込み病気の原因をつくったりします。
前回・今回と木を環境圧という視点からみてきました。木を育てていくときに私たちは様々な方法で管理を行っています。次回は、間違った管理の方法について書いていきます。一種の「べからず集」です。
参考文献
1)北海道土木部河川課(1993)河畔林植栽の手引き(案),P39
2)水辺環境林造成に関する研究会 編(1994)水と命をはぐくむ緑の創造1994水辺環境林造成ガイドライン,P44,(財)北海道開発協会
3)ペドロジスト懇談会 編(1974)土壌調査ハンドブック,P156,博友社
4)松井健(1989)土壌地理学特論,P230,築地書館
5)苅住のぼる(1987)新装版樹木根系図説,P1121,誠文堂新光社