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独断と偏見による街のみどりづくりへの提案 −地形を生かした樹木の植栽−


2.地形の記憶と樹木
はじめに
札幌の地形と地質
植生景観
開拓当時の植生景観
地形別植生景観
保存樹と保存林
札幌の街路樹
立地特性に合わない樹木は?
樹種別立地特性
街のみどりづくりに何を考えるか
はじめに

 次は地形の記憶と樹木という題です。あちこちで木が植えられているのですが、うまく育っていない場合が多いと感じています。もともとどういうところに生えていたかということを忘れてしまって、ただ見た目だけで木を植えているからではないかと私は考えています。札幌を例にとって、地形と生育している樹木の関係をお話しして、それを踏まえた植栽計画とは何かを探っていきます。
札幌の地形と
地質
 札幌は、JRの北側まで札幌扇状地という、豊平川が運んできた土砂でつくられた土地の上にできています。さらにその北側は北部低地という名前がついていますが、豊平川が運んできた細かい粒径の土砂がたまったり、伏籠川、さらに言えば石狩川の影響を受けた土砂が堆積した場所です。低地部には伏籠川流域のように自然堤防といってやや小高い場所もあります。次の断面図では出てこないのですが、月寒丘陵の部分は支笏凝結溶解岩の台地になっています。
 本来はこれらの地形に応じて植生が出現します。
 これは地質断面です。JRの位置がずれていたみたいで、もうちょっと右側にJRがあります。この地形の変化点よりちょっと左側が扇状地部分で、右側が北部低地ということになると思います。北部低地の部分で泥炭がでてきます。
植生景観  地形によってどういうふうに植生が変わるかをお話します。下流側から見ましょう。
 水分の多いいわゆる湿った状態の所は、もともとはハンノキ林だったと思います。極端に水分が多いところは、ハンノキも生えずにたぶんヨシ原であったり、あるいはスゲの群落だったと考えています。今から30年くらい前までは、大谷地というのはこういう状態で、背丈の低いハンノキであるとかヨシがはえていた場所でした。
 微高地、これは先ほどいいました伏籠川の自然堤防上などですが、ここはハンノキの生えているところよりも若干乾いた場所になるので、ヤチダモ・ハルニレ林というのがでてきます。
 それから扇状地の先端部分になってくると、ハルニレ林になります。藻岩山の方に上るとシナノキ・イタヤ林という植生になってきます。
 藻岩山では、今は針葉樹とはほとんどみられませんが、かつてはエゾマツ・トドマツもこの山麓にはえていたという話です。
開拓当時の
植生景観
 これが開拓当時の植生景観です。どの辺だったんでしょうね。ちょっとわかりませんが、写真のように大きなサイズの樹木が林立する広葉樹林があったのでしょう。
地形別
植生景観

(自然堤防)

 現在でも、地形の記憶を残したような林があるのだろうかと思い、今日お話しするために一日札幌の街の中をぶらぶらしてきました。
 下流からいきます。
 ここは日の丸公園、北41条東10丁目の辺です。ここは伏籠川の自然堤防上だと思うんですが、ヤチダモ・ハルニレ林というのが今でも残っています。後ろの方で桜の花が咲いていますが、それらは後から植えたものだと思います。

(低地)  もう少し上流にいきます。
 ここは大学村の森という名称がついて公園として残されている、北大の先生達の官舎があったところです。ここはいまハンノキ林になっています。樹高十数mのハンノキなんですが、かつてはもっと背丈の低いハンノキだったというふうに考えています。それが周りの土地利用が都市化するとともに地下水位が下がって、次第に乾燥してきた。その結果このようにハンノキが大きくなったと考えています。釧路湿原のように、常に水がひたひた浸るような場所ですと、ハンノキというのはここまで大きくならずに、せいぜい樹高が3〜4mくらいに伸びては立ち枯れて、また根元から数本でてきて伸びるという形態で伸びる木です。ですからこういう大木があるというのは、いろいろな人為的な理由で土地が乾燥化したということを証明していると考えます。
(扇状地)  これは北大のハルニレ林です。ちょうど扇状地の一番末端部分にあたります。いま切る・切らないでもめていますけれども、すでにこういう形で上の方がなくて、枯れてしまってなくなって、倒れそうなので、実はここをバンドで抑えています。かろうじてこういう形でハルニレ林がもっているというような状態です。
(扇状地)  これはすすきのの少し西側にある道路に残されたハルニレです。これも扇状地のちょうど中央部あたりに残されたというふうに考えます。
 かつては大通りにもハルニレの大木が何本かあったということですが、老齢化して危険になったので切られてしまったということです。
(扇状地)  もっと上流に行きます。
 真駒内川流域にはいってしまうかな。真駒内曙中学校といいまして、真駒内屋外競技場のすぐ隣にある中学校の校庭に残されているハルニレです。ここは札幌扇状地よりも一年代古い平岸面といわれる扇状地に残されたハルニレです。
(河岸段丘斜面)  さらに上流に行きますと、真駒内川の河岸段丘斜面に名残が見られます。ここはエドウィン・ダンがつくった用水路の右岸で、エドウィン・ダン念館の裏側です。こんな形で昔の河岸段丘斜面の植生が残っているところがあります。
(丘陵)  これはもう少し上流になります。
 真駒内南小学校のミズナラです。そこにある看板を見ますと、推定樹齢300数十年ということです。ミズナラがでてきますとこれはもう扇状地面ではなくて、むしろ月寒丘陵の西端という地形にあたると考えていいと思います。ハルニレよりも乾いた条件のところにでてきます。
保存樹と
保存林
 ここまで札幌の地形を残している、あるいはその地形によって立地している樹木は何かということを具体的にみてきました。
 今度は札幌の木という1985年のデータを使って、どういう木が保存樹として残されているのかというのを集計してみました。保存樹とは、道条例、市の条例、それから国の法律によって残されている樹木です。
 今まで写真で説明したのは、植えられたものではなくて、もともとあった樹木が残されたものなのですが、保存樹の半数近くは植えられたものが「保存樹」として残されています。自生種の中には、針葉樹であればトドマツ、エゾマツ、あるいはイチイとか入っています。それから多いのは、先ほど写真でお見せしたハルニレやヤチダモです。一方、植えた木でも大木になったものは、保存樹という、どういう定義なのか私もわからないんですが、そのなかに入れられて残されているという形になっています。一番多いのはイチョウです。これは14本あります。それからニセアカシアも3本ほどあります。あとはアンズであるとか、ヒバなどが入っています。イチョウを針葉樹というのは変だと思われるんですが、実はイチョウというのは裸子植物という分類の中に入っています。裸子植物というのはマツであるとか、こちらでいえばエゾマツ、トドマツ、そういうものと同じ種類で、普通我々が言っている広葉樹というのとは分類が違っています。それが少し奇異な感じがするとは思いますが、一応針葉樹に入っています。
 どういう場所に保存されているのかというのもまとめてみました。ここでNというのが針葉樹で、Lが広葉樹です。自生種が残されている場所というのは、お寺よりも神社が多い、あるいは公共空間であったりする。ところが一方イチョウをはじめとする外来種、あるいは本州から持ってきた移入種というのはお寺に多いというのがわかる。これはどういうことかわかりませんけれども、私からいいますと、お寺が植生を壊しているというふうに見えましたけれど、みなさんはどう思いますか。
札幌の街路樹

 次に今度は街路樹でどんな種類が植えられているか、その地形の記憶が残されているんだろうかということを見てみます。
 これは1985年と今年のデータと両方入れてあります。これは広葉樹だけのデータです。イチョウも入れていますけれども一応広葉樹ということにしましょう。上位3種のうち、もともと北海道あるいは札幌にあったと考えられるのは、ナナカマドだけです。ニセアカシア、イチョウ、4番目になりますが、プラタナスというのは海外から、あるいは本州から持ってきた種類を植えています。ですから、街路樹だけを見る限り札幌らしい景観というのは非常に少ないと私は考えています。その樹種割合で外来種と自生種をみますと、一応自生種のほうが多くはなっています。本数割合でいいますと、昔は外来種が非常に多かった、ようやく最近になってきて自生種の方が半分以上になってきたといえます。もともと外来種というのは成長が速い樹種を選んで持ってきたという経緯があります。成長が速い木を街路樹に使うことによって、速くみどりをつくろうというような意図があったと思います。でもだんだん本当にそれでいいのか、という反省から、きっと変わってきたんだろうと思います。

立地特性に
合わない
樹木は?

 今度は地形の記憶をうまくいかせなかった例です。
 これは私の団地で、前々から気になっていたところで、今回このためにはじめてデータをとりました。今から15年前に植えたシナノキです。造園ではオオバボダイジュという範疇にいれることがあります。一方は植えて15年経つのにだいたい樹高4.5mくらいにしかなっていません。一方は9m近い大きさになっています。これは何を意味するのでそしょうか。私の住んでいる団地とは火山灰の丘陵地にあります。地形的に凸地形になっていて、上の方というのは非常に成長が悪くて、下がっていった方の成長がいいという傾向にあります。これはきっと水分条件と、南側から結構強い風が吹くので風の陰になっている、その2つの条件で地形的に斜面の下がったところの方の成長がいいのではないかと思います。
 もう一つは公園の中にカツラの話です。近くの滝野公園に植えられたカツラと生長を比較してみました。滝野公園のカツラの樹高成長曲線に比べ、団地の公園のカツラは明らかに成長が劣っています。本来カツラは斜面下部の比較的水分条件に恵まれたところに立地するのですが、火山灰台地の頂部という乾いた条件で植えたことが成長不良につながっていると思っています。

樹種別
立地特性
 樹木は種類によって、実際に生えている場所の条件は違います。いまは、この辺を滅茶苦茶にしていま植えているのではないでしょうか。たとえば今出てきたシナノキですと、どちらかというと斜面の中腹部から下の方、やや水分条件がいいような場所です。それから先ほどいいましたように、ハルニレとかヤチダモというのはやや湿ったところにでてきますし、一方ミズナラ、シラカンバというのは乾いたところにでてくるという性質があります。この性質をわきまえて植える木を選ばないと、先ほどの例のように育たないということになります。
街の
みどりづくりに
何を考えるか

 これは、私が間違っていると思っている事例です。2つの点で間違っていると思います。
 一つは、カツラの木と中央分離帯にハシドイという木を植えていることです。このカツラという木は、将来大木になる木なんですね。将棋の盤、あるいは碁盤をとったりするような木ですから大木になります。そういう木をこういう電線の下に植えてどうするんだという思い。一方このハシドイというのは伸びても7、8mくらいにしかならない、本来であればこの配置は逆にならなければおかしいと思います。
 もう一つ間違っていると思うのは、もっと根本的な話しです。ここは清田区役所の前の通りなんですが、先ほど話した月寒丘陵の一部で火山灰台地です。本来こういう乾いたところには、カツラやハシドイというのは出てこない、あるいは植えても大きくは育たないそういう場所です。ですからこういうところに植えていてもきっとこのサイズを維持できればいいほうで、ひょっとしたら維持できないで頭から枯れていくのではないかと私は考えています。もともとこういう地形のところに出てこない樹種ですから、きっとこの通りを、分かっている人が通るとなんとなく変だなという感じを受けながら通るのではないかなと思います。

 40分ですからこれで終わります。みなさん今日の話を聞いてどう考えられるかわかりませんが、街の中での緑づくりをするときに、どんなふうに考えるのか、どんな緑が欲しいか、それをを是非考えて欲しいと思います。たぶん提案まではできなくて、問題を投げかけるだけで終わります。提案については、またいつかどこかでやれればと思います。


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