<<ARCS Labo Top <<ARCS情報室 <<ARCS Technical Data <<ヨーロッパ川紀行
ヴィンタートゥール(Winterthur)・ハルト(Hard)
テス
ライン
 近自然河川工法の紹介によく用いられる場である。

 ライン川の左支流テス川における小落差(滝)の保全事例である。
 テス川のヴィンタートゥール(チューリッヒ州)付近は、河床に砂岩が露出しているところが見られる。砂岩の下層はモラッセマールと呼ばれる比較的柔らかい地層で、河床の浸食がこれらの層に達すると河床の下面が空洞化し、河床に生じる落差は次第に後退する。いわゆる「谷頭の後退」が始まる。
 ハルト地区にある自然落差では年間0.5m程度の後退が見られるようになり、上流の水力利用に大きな影響を及ぼすことが懸念されたことから保全工事が行われた。

 テス川は、この地点では小渓谷をなしているために景観に配慮することや、サケ科魚類(ブラウントラウト)の遡河を可能にすることが求められた。これらの条件を満たすために、近自然工法を用いた小落差の固定や魚道の設置が行われている。

 魚道はさすがに自然状態のようにはつくれないが、固定した落差は、遠目には岩盤そのものに見える。

山脇正俊,1998,テス川自然落差:近自然工法による修復,2000,北海道川の会スイス・ドイツ近自然工法見て歩き 資料 より

写真をクリックすると大きな映像を見ることができます


※モラッセ
ヨーロッパアルプス地域で、漸新世後期〜中新世(3700万年〜500万年前)に山地が形成された直後に堆積した地層。淡水成〜海成の礫岩・砂岩・泥岩から構成されている。
※マール
炭酸塩の泥質粒子と粘土鉱物の混合堆積物を泥灰岩といい、これが固結したものをマールという。

町田貞ほか,1981,地形学辞典,767pp,二宮書店 より