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独断と偏見による街のみどりづくりへの提案 −地形を生かした樹木の植栽−


1.根の空間論
はじめに
根とは?
みなさんの認識は? 根の深さ
みなさんの認識は? 根の広がり
根の深さ
根の広がり
実際の根は
なぜ、木は倒れないか?
木を植える = 外部経済空間
はじめに

 最初に根の話しをします。根の話というのは思いのほか考えられていません。皆さんみどりづくりをするとき、あるいは都市空間の中にみどりを持ち込もうとするとき、何を考えますか?どういう実がつくか、あるいはどんなきれいな花が咲くか、多少想像力がある人は将来どれくらいの大きさになるのか、ということぐらいまでは考えると思います。でもその地下構造の部分、つかり根の部分を考えてやられているのでしょうか。今日はその辺の説明をしたいと思います。
根とは?  根とは何か、これはいろいろな辞書から「根」とつく言葉をひろいあげたものです。根も葉もないとか、根にもつ、根をおろす、かなり下の方や深いところの話がでてくるということがわかるかと思います。
 根は漢字ですから語源があります。「根」は、木と目と刃からできています。目と匕首は、頭蓋骨のなかの目というくぼんだ部分、えぐったような状態になっていて一定で動かないということを表すそうです。それと木が組み合わされて、木の中の動かない部分ということで、「根」という漢字ができたといわれています。
高橋英一(1994) 「根」物語−地下からのメッセージ,156pp,研成社 より
 アリストテレスも根について話しているということです。何といったかというと、逆立ちした人間だといっています。根が口の部分だということです。
 私は、根は口の部分であるのと同時にもう一つの役割もあると思います。それは人間における足の役割だと思います。まさに根を張るのというような意味で足だと思っています。
みなさんの
認識は?

根の深さ
 そこで問題です。話が一方通行ではつまらないので、みなさんとやりとりをしてみましょう。根に対してみなさんがどう認識されているのか、ということを知りたいので、問題に答えていただきます。
 まず根の深さはどれくらいあるのかということです。ここでは樹高10m、胸高直径(人間の胸の高さでの直径です)、だいたい1m30cm〜1m40cmくらいの所の高さと思ってください。それが10cmくらいの木が対象です。この根の深さはどれくらいでしょうという問題です。
 1/20つまり50cm程度と思う人は赤、1/10つまり1m程度と思う人は黄色、1/5つまり2m程度と思う人は青、それから1/3つまり3.3m程度だと思う人は緑、それぞれ挙げていただけませんか。
 まだ答は言いません。赤が1人、黄色が1人、青が5人、その他がみんな緑ということです。つまり樹高10mだと、その1/3の深さまで根があると考えている人が2/3いるということです。
みなさんの
認識は?

根の広がり
 もうひとつ問題を出します。今度は根はどれくらい広がっているのかという問題です。前の問題は深さですけれども、今度は横方向の広がりです。
 これも同じように、胸高直径の5倍程度だと思う方は赤、10倍の人は黄色、20倍と思う人は青、それから30倍以上と思う人は緑、また挙げてください。
 みなさんの答えを見ると、直径の30倍以上と考えている方が2/3ということです。
根の深さ  それでは答えをみましょう。
 これは自分で調べたデータではありません。苅住さんという、森林総研にいらっしゃった根の専門家が調べたものです。八ヶ岳のふもとで調べた胸高直径が31cm、樹高が14mのシラカンバの事例です。これを見ると根の深さは70cm程度です。実際に私も何箇所か掘ったりしたことがあるのですが、1mまで根が入っているという例はほとんどありませんでした。おおむね50cm程度でした。ですから先ほどの問題の答は、樹高の1/20程度ということになり、赤が正解です。赤の方は1人、つまり正解は1人だけでした。
根の広がり  それから広さ方向です。広さというのはなかなか調べるのが大変で、一般の森林で調べられた例は非常に少ないと思います。たぶん無いのではないかと思います。というのは何本も木が立っているものですから、どれがどの木の根かわからなくなるということが起こり、かなり調べずらいといういうことで調べられていないと思います。
 これも苅住さんが東京湾の埋立地で調べたニセアカシアの例です。これは胸高直径8cm、樹高4.6m、サイズとしては小さい木です。たぶん植えられた木だと思うのですが、図では半径が8m、さらにそれ以上たぶん伸びているだろうということになっています。ですから胸高直径の30倍以上はあるということです。緑が正解でした。2/3以上の方が正解です。
実際の
根は?
 これが実際に斜面で露出した根の例です。この木の胸高直径は確か30cmはないと思いました。ですから半径でもそれの30倍以上あると思います。
 このように木の根というのは浅いけれども横に大きく広がるという性質があるということです。
 教科書、特に造園の教科書などを見ると、造成地では高木の場合では客土を1mしなさい、中低木で50cm、低木類でも30cmと書いてあります。しかし実際に自然状態を見ると、根はA層で伸長していることがわかります。先ほどの断面図でCと書いてあるところがあります。これは基岩です。いわゆる土壌のもととなる岩石に近いような場所で、そこまでは根は入りません。A層という腐植、簡単な言葉でいうと栄養分を含んだ黒土の部分で根をはるという性質を持っています。基岩は固く、割れ目があれば根は入っていきますけれども、ただ入っていってもそこで栄養分を吸収できるかというと吸収できないし、それから根というのは呼吸しますから、酸素を取り入れることができるかというと基岩の中ではできないということで、そういうところには根は入りません。なるべく条件の良いところへ根は伸びていくわけです。
 私はあるダムの底、夏になって干上がったところでヤナギの根を掘ったことがあるのですが、高さ20cmくらいのヤナギ、たぶん前の年に芽が出て伸びたものだと思うのですけれども、それを少し引っ張りあげて、ぐーっとやったら、その根が水平方向に4mくらいありました。ダム湖岸のように水分条件が良い、というのは変な言い方なんですけれども、あえて下の方に水分を求めなくてもいいような場所では根は横にはってしまうというような性質があります。ただし、アフリカの雨の少ないところにいくと、根というのは非常に深く入っています。これも私がとったデータではないんですけれども、アフリカに調査に行った人のデータを見せてもらったときは、根の深さは8mくらい入っていました。そこは非常に雨が少ないために、横に根をはっても水分を吸収できない。ですから下に伸びていって、なんとか水分を取ろうというような形で伸びたようです。
なぜ、木は倒れないか?  それでは、なぜ木が倒れないかということです。たぶん根の深さが1/3程度と答えた方が多いということは、杭を思い浮かべたのではないかと思います。杭の場合、一般に地上部2に対して地下部1くらいの割合でないと構造的にもたないと言われています。ですから、1/3という答えがでてきたのではないかと思います。杭で考えると非常に常識的な答なんですが、木の場合は実は三角錐のような形で力学的にはもっていると考えた方が良いのではないかと私は思っています。このために横からの荷重が加わった場合でも木は倒れないというような解釈をしています。
木を植える

外部経済空間
 木が大きくなるということは、実は根がはるということと同じような意味を持っています。この中で、盆栽をやっている方はいらっしゃいますか。いらっしゃらない。盆栽がなぜ大きくならないかというと、鉢に植えて根を伸ばさないようにしているからです。毎年上の方の芽をつむというだけではなくて、実は根を切って伸びないようにしている。ですから、上を大きくしたければ、下も大きくしておかないと木は伸びられない、上を大きくしたくなければ、地下部はなるべく小さくしておく、というようなことが必要になってきます。
 ここに外部経済空間という言葉を書きましたけれども、基本的に木を植えた空間というのは、お金儲けにならない空間だと思います。ですから木を植えるということは、共有空間にするという認識をみなさんで持つということが必要なのではないかと思います。共有空間であるということは金儲けにならない空間だという合意を取り付けないことには、実は木を植えられないだろうと私は思っています。
 根の話はこの程度で終わります。


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