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2005/06/11
「水辺の森を語る」

2005年6月のある日、以前ある委員会でご一緒したさっぽろラジオ村の加藤知美さんからお電話があり、「ラジオ番組のインタビュー、受けてくれない?」という依頼を受けた。お急ぎだったようで、その後2日ほどして、加藤さんとパーソナリティーの大野麻理さんが事務所においで下さり、インタビューを受けることになった。そして放送は2005年6月8日、午前8時半からの「そらのおと、みずのこえ、みどりのうた」で私の声が流れた。その後、放送の一部は2005年7月24日の札幌タイムスに掲載されることになった。
この内容は、札幌タイムスの了解を得て転載している。
大野 今日のテーマ、『森との関わり』についてお話を伺ってきましたので、そちらをお聞きください。今日は、有限会社アークスの孫田敏さんにお話を伺います。

孫田 宜しくお願いします。

大野 まず、孫田さん、有限会社アークスという会社にお勤めなんですが、何をされているところなんですか?

孫田 木を植える、その事の計画を考えるという仕事をしています。

大野 その計画を立てるというのは、具体的にどういうことなんですか?

孫田 例えば、川の側に本を植えようかといった時に、元々川の側にはどんな木があったか、ということをまず考えるのが最初ですよね。元々なかったものをボンと植えてしまっても、後からいわゆる水辺と、その木が作り出す景観というのが、すごくミスマッチになっちゃうとかね。もう1つ言えば、本来の生態系にない樹種が入ってきて、他にきっと色々な影響が出てくるということもある。もともとはどんなものがあっただろう、それを今はない場合には、昔の地形を想像するとか、後はそれに近いところを見て、どんな木があったかということをまず考えます。それからもう1つ考えることがあって、水辺の近くというのは土が湿っていたり、風が強かったり、実は木が育つためには、あまり良い条件ではない、そんな場所が多いんです。ですから最初に木を植えるときに、そういうふうに育つ条件というのをどうやって整えていくかということも考えます。

大野 じゃ、本が育つのにあまり良くない環境の所に、いかに植えていくか、育てていくかということを考えなければならないということですね。

孫田 そうですね。

大野 それは、大変なことじゃないんですか?

孫田 ええ。そういうことを考えなければならないということを、いろんな人に理解してもらうまで、随分時間がかかっています。最初は、植えれば全部育つというふうに考えられていたものですから。

大野 私も何か、植えてしまえば後は木が勝手に成長するものだというイメージがあるんですが。

孫田 いいえ、決してそういうことではなくて、人間と同じです。子育ての期間というのが必要です。

大野 じゃあ、そういう木に対してのいろんな計画を立てていらっしゃる孫田さんに伺いたいのですが、石狩川、茨戸川はどういった自然環境だったんでしょうか?

孫田 明治のころの地図を見ますと、石狩川というのは大きく蛇行しています。それで川の側にはどうも木があったらしいということは書いてあるんですけれども、その後ろ側というのは、今で言う湿原状態ですね。きっとヨシ原だったんじゃないかと思います。

大野 じゃあ、その状態というのは、それこそ先程孫田さんがおっしゃったような、木が生えづらいような状況だったんですか?

孫田 きっとそうだと思います。ただ、木というのは適用力があるし、樹種によって、ある場所には非常に生えやすいということもあります。川の側というのは…。今、川の側に木が生えるといいましたよね。そうすると、上流から運ばれてきた土砂というのが川の側にたまり、周りの湿原よりもちょっと乾燥してきます。そうするとそこには、例えば、湿原にあったヨシや、そういう湿ったところを好む植物よりも、もうちょっと乾いた方が良いかなという木が生えてくる。まぁ、周りから種が飛んできて生えやすくなる。そういうことかあります。

大野 なるほど。

孫田 ですから、全部条件が悪いから、一切、河畔林のような林ができないかというと、決してそうではないということですね。

大野 孫田さん、河畔林というのはどういったものなんですか?

孫田 河畔林って、実はあまりはっきりした定義のない言葉で、川の近くに生えている樹本の塊。一本一本じゃないですね。塊は河畔林と言う、そういうふうに思っていただければ良いと思います。

大野 なるほど。じゃあ、石狩川の河畔林といわれるものというのは、今はあるんでしょうか?

孫田 今は名残が非常に少ないかなーと思います。石狩大橋のちょっと上流側の、ミズバショウの群落が見られるようなところがありますね。あの辺だと、いわゆるハンノキ林と呼ばれる湿地性の林が残ってます。あと多くの場合は、水辺で一回木を切られているので、ヤナギ類の河畔林が大半ですね。現在見られるとしたら、川を真っ直ぐにした後の、河跡湖と呼ばれる三日月湖がありますね。それは茨戸川もそれに近い状態ですけれども、そういう所の縁に残された林が、元々あった林として残っているところもあります。

大野 河畔林の林の役割というのは?

孫田 人間の目から見ると、あまりないのかもしれないですね。でも、川の生き物達にとっては、かなり大きな役割を果たすと思います。例えば、もし岸辺に大きな木があったとしたら、その根というのは実は水の中にまで入っています。そうするとちょうど、水辺の岸のところはえぐれた形になって、半分洞窟のようになりますね。その中に、木の根っこが入ってますから、それが小さい魚の隠れ家になるわけですね。

大野 なるほど。

孫田 魚も小さいうちは大きな魚に食べられるので、どこか隠れ場所とか、あるいは水の流れが井常にゆるいところがないと、生活できないわけです。そういう隠れ家になるというのが1つあるし、それから川の側に木が生えていることによって、風の力が弱まりますね。川というのは普通は低いところを流れるから、結構強い風が通るんです。それが河畔林があることによって、その風の強さが弱まる。そうすると、鳥や何かがそこに避難しやすい。あるいは鳥が通りやすいとかですね、そういうことが出てくると思います。

大野 そうなんですか。木の根っこというのは、本当にそんなに伸びてゆくものなんですか?

孫田 深くは入っていかないんですよ。何mくらい入ると思います?例えば10mくらいの木だと。

大野 10mの木で、1mとかですか?

孫田 近い方ですね。普通の人は、3mくらいって言うんですよ。(笑)

大野 そうなんてすか?(笑)短いのかと思ったんですけれど。

孫田 実は、50cmから1mくらいのところまでしか木の根って張ってないんですよ。ただ、それが横に張っていくんですね、表面の柔らかい所に張っていった方が、木にとってもいいわけですよね、楽だし。

大野 木も楽なんですね。孫田さんは、お仕事の都合で色々な所に行かれていらっしゃるということなんですが、今、私の手元に、『ヨーロッパの近自然工法に触れて』という小冊子を拝見しているんですけれども、ヨーロッパにもよく行かれたんですか?

孫田 よくというほどではないんですけれど、3、4回行ってきました。

大野 そうですか。ヨーロッパっていうのは、川の様子というのはどうなんですか?

孫田 ある時ですね、地図を見ながら川を探しながら車で走ったことがあったんです。比較的平坦なので遠くの景色は良く分からないんですね。地形が良く分からないんですけれども、「あそこに川がある」というの分かるんですよ。遠くから。それは何かというとてすね、川の縁が河畔林で覆われている、それが遠くからでも見えるんですね。それが線のようになっているから、「あ、あれは河畔林で、あそこにきっと川があるんだ」という予測がつくんです。

大野 川が見えているわけではないんですね。

孫田 ではないですね。

大野 そう聞くと、日本の川というか、私もあまり日本全国の川は知らないんですが、札幌の川ってないですね、河畔林がほとんど。

孫田 ないですね。あっても背丈の低い、せいぜい5、6mぐらいのヤナギぐらいしかないですね。遠くからランドマークになるような河畔林というのはほとんどないと思います。

大野 そのヨーロッパの河畔林というのは、それはもともと自然にあった森の中に川があって、それが広がったとかっていうことではないんですか?

孫田 多分、植えたものの方が多いんじゃないかなと思って見てきました。

大野 そうなんですか。

孫田 ヨーロッパに行くと、平地に結構、林が残されている。あるいは造られているんですね。多分ここの河畔林というのもそれと同じような考え方で、植えられたり、あるいは残されたりしてきたんだと思います。

大野 そうなんてすか。札幌も年々住宅地が増えたりして、木が伐採されてね、森だとか自然というのと段々懸け離れてきているような気がするんですよね。で、今、私の世代もそうですけれども、もっと若い世代だとか、子供たちの世代も、自然と親しむというか、川で遊ぶだとか、そういったことも減ってきているような、そんな気がするんですよ。

孫田 そうですね。

大野 ええ。で、どういう風にしたら、どういったきっかけがあれば、もっと自然に親しめるでしょうか?

孫田 水に触って、水のしぶきを浴びて、楽しいことなんだっていうのをまず感じて欲しいなと思いますけどね。それでその上で魚が捕れたり、そういうことがあるともっと楽しい。

大野 孫田さんご自身、子供のころって、どんな遊びされてたんですか?川で。

孫田 私は山形の田舎で育ちました。盆地だったんですけれどね、結構、町の中を用水が流れていたんですね。そこにたらいを浮かべてですね、たらい船のようにしてよくひっくり返ったりとかですね(笑)。

大野 楽しいですね(笑)。

孫田 洗濯用のたらいを使ってやっていたから、親に怒られましたけどね(笑)。

大野 そうなんですか?おうちから持ち出して?

孫田 ええ。ところで川って、今の日本の制度だと、公共物だから、自分たちのものだという意識が、実はないですね。

大野 ないですね。

孫田 それはある程度しょうがないだろうなとは思います。川だけじゃなくて森もきっとそうなんですけれども、でも、とりあえず何でもいいからね、行ってごらんよ。これは川でも森でも同じです。そこに吹いている風、とても気持ちいいんです。時として、すごい強い風が吹く時もあるし、厳しい時もありますけどね。でも何かの時に、ふっと川面に向かって汗ばんでる時にね、風が通り抜けていくと、なんて言ったらいいかな?至福の時というふうに感じる時があります。今、みんな川に背を向けているというのは、きっとそういう気持ちよさを味わったことがないんじゃないのかなと思うんです。だから、一生懸命川の事を考えてよって言っても、そうそう、背中を向けている人たちを向けさせるのは難しいと思うんです。けれども気持ち良いんだっていうことが分かってもらえると、随分変わってくるんじゃないかなと。今度は前を向く。で、前を向いたときにあまり汚いとね、また背中向けたくなっちゃう。だからやっぱり、前を向いてもっと気持良さを味わいたいなというふうにしていくとね、もっともっと皆さん、川に目を向けてくれるんじゃないかなと思うんです。

大野 私たちは、じゃあ、環境のこと、環境のことというふうに難しく考え過ぎるんでしょうかね。気軽にこう、森に、川に足を運んで、この番組のタイトルじゃないですけど、空の音とか、水の声とか、緑の歌とかそういった自然を体で感じる、五感で感じる、そういうことから自然と親しむということを…。

孫田 それで良いと思います。私自身は技術屋だから、どうしても理屈で自然と付合わわざるを得ないのですけれども、別にそれが入り口ではないと思います。まずは、気持がいい。北海道弁で言うと、「あずましい」という、そこから入っていって良いんじゃないかと思うんですね。

大野 そうですね。今日はどうもありがとうございました。

孫田 こちらこそ、ありがとうございます。

インタビュアー
大野麻理さん
ディレクター   
加藤知美さん
紙面編集      
堀井英喜さん

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