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アンデルフィンゲン(Anderfingen)
トゥール
ライン
【平堤防】

 Klein Anderfingenはラインとトゥールの合流点から10kmほど遡ったところにある小さな村である。左岸側では、河畔には広葉樹林や造林したと思われる針葉樹林があり、その背後に農地が続いている。
 堤防に相当する土の盛り上がりは見えないのだが、農地をよく観察してみると、植え付けられた作物の列がどことなくうねっている。実はこれが堤防だ。平堤防と訳しているそうだ。川の両側に高みがあり、その範囲の中で水が流れれば洪水とは呼ばないのだから、理屈としてはあり得ないことではない。が、始めて見ると実に合理的に思える。確か1/100の断面を確保していると聞いたのだが、100年確率の出水が毎年続くわけではない。高水のないときには農地に使っていてもいいのではないか、ということだろう。聞き漏らしたが、保険あるいはそのときの補償も話し合われているに違いない。


【倒木水制】

 低水護岸をはずしてしまうと高水時には河岸が侵食されてしまう。左岸側は造林地となっているので、侵食された造林地のヨーロッパトウヒは根元をえぐられ倒木となっている。さもあちらこちらにその痕跡として残っているかのように見えた。
 しかし、これは大きな誤解だった。近づいてみると倒伏した樹木の根元にはワイヤーがくくりつけられている。倒木にはなっているものの、流木化しない仕掛けだ。これを「倒木水制」と呼ぶのだそうだ。「木流し」の大規模なものと思えばいい。侵食を受け倒木化した樹木を今度は護岸代わりに使おうという考えだろう。

 平堤防といい、倒木水制といい、理屈としてはあり得ないものではないと皆考えるのだろうが、現実化してしまうところに、「近自然」が根付いてきている証左があると思う。

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【トゥール川の概要】
 トゥール川はアルプス山系センティス山(標高2,500m)に源を発し、ライン川に流入する左支流で、チューリッヒ州で最大規模を持つ河川である。テス川と同様に途中に遊水機能をもつ湖がない。
・流域面積:1,700平方km
・平水流量:10-50立法m/sec
・計画高水:1,325-1,425立法m/sec:1/100
・河床勾配:1.1-1.6%

山脇正俊,1998,トゥール川:近自然工法による洪水対策,2000,北海道川の会スイス・ドイツ近自然工法見て歩き 資料 より