ARCS TECHNICAL REPORT No.9
桜づつみ造成について
桜づつみということばもあまり聞かれなくなりました。一時のはやりだったのでしょうか。ちょっと古い話になってしまいますが、あちらこちらでずいぶんつくられました。
北海道では、本州各地のように華やかな桜づつみができあがったという話はあまり聞きません。北海道で上手につくるには、北海道ならでは工夫が必要だと思います。そんな気持ちでまとめたものです。
はじめに
昭和63年度の『桜づつみモデル事業」の開始以来、道内でも各地で事業が行われ、すでに18ヵ所(平成4年度現在)で造成されたり、あるいは造成が進んだりしています。
桜づつみというと、川面に映る満開の淡いピンクという情景を思い浮かべる方が多いと思います。このような姿になれば…と思いながら事業を実行されている方がほとんどでしよう。ところが、北海道の自生種であるエゾヤマザクラをはじめ、サクラ類は風の強い場所や、根が十分伸びることができない粘性土の場所などでは良く成長できないという性質をもっています。また病気や害虫なども発生しやすく、必ずしも取り扱い易い樹木ではありません。
河川空間は、一般に風の通り道となることが多く、また植栽する基盤も浚渫土で水はけの悪いところが多くなっています。つまりサクラ類にとっては生育条件の悪い場所といえます。ここでは、このような条件の場所でサクラを植えて育てるためにはどのようなことを考えていかなければならないか、をまとめてみました。植栽する場所の条件はそれぞれ違います。ですから必ずしも一般論だけで植栽計画ができるものではありません。必要最低限こんなことは考えた方がいいよ、という気持ちでまとめています。これから事業を実行される方々の参考になれば幸いです。
平成5年7月 文責 孫田 敏 水辺環境林造成に開する研究会 北海道開発局開発土木研究所環境研究室
なぜ木は枯れる?
なぜ植えた木が枯れたり弱ったりするのでしょうか。非常に様々な原因があります。樹木の生育にとってマイナスとなるような環境条件を環境圧と呼んでいます。これまで各地で植えたサクラがうまく育たなかった例をみると、様々な環境圧の中でも『風』と『土』と『雪』が大きな生育阻害要因となっているようです。ここではこの3つの環境圧に的を絞って説明しましょう。
風
川筋に風が吹き抜けるため、植栽地周辺は比較的強風域となることが多いことは述べました。このため植栽した木の根が十分働かないうちに、強風による強制脱水が起こり、葉はしおれ、しまいには落葉してしまいます。
当然幹からも水分が失われますから、木全体が水分不足でしおれた状態になり、弱っていきます。特に植えて間もない時は下の図のように水分を吸収する根が少ない状態となっているので風の影響が大きくなります。
土
「土の三相比」ということぱがあります。ある土壌の固相(土や礫)・液相(水分)・気相(空気)の割合です。木を植える土壌はこれらの三相がほどよい割合となっていることが大切です。
固相の割合が高すぎる、つまり土の密度が高いという状態では固すぎて根がなかなか伸びることができなくなります。木が伸びるためにはそれに比例して根も伸びなければなりません。ですから根が伸びないということは、木の成長も悪いということになります。
液相の割合が高い、これは非常に湿った状態です。この時には気相の割合が小さくなることも多く、空気の流通が少なくなります。根は土壌中の酸素も吸収しています。ですから水分が多くなって過湿になると根の呼吸ができなくなり、『根腐れ』の状態となり弱っていきます
気相の割合が高い、これは締まりのないスカスカの状態の土です。あまりにすき間が多すぎて、水分が保持されず乾燥してしまいます。木も水不足の状態になり、弱ってやがて枯死してしまいます。
雪
春、雪融けの頃、木が雪に押されて斜めになっていたり、枝が雪に引っ張られて抜けそうになったりしているのを、皆さんもご覧になったことがあるでしょう。
降り積もった雪は、大地にかけたフトンのような役割を果たしています。つまり、土壌凍結を防いだり、小さな木が寒風にさらされるのを防いでいます。 一方、雪は木の生育を阻害する要因にもなります。先に述べた例などです。ひどい時には折れてしまうこどもあります。
主に見られる雪の害は次のようなものです。
○雪圧害(1)
積雪が斜面上で移動した場合、植えた木に雪圧がかかります。この雪圧のため、支柱もろとも斜めになっている例がしばしば見られます。
○雪圧害(2)
まだ小さな木の場合は、積もった雪にすっぽり覆われてしまいます。積もった雪は平らな場所では、毎年一定方向の雪圧になるとは限りません。ですから木にかかる雪圧も一定ではなく、ある時は右に曲がったり、ある時は左に曲がったりします。あまりひどい時には、下の図のような形になってしまいます。
○雪圧害(3)
ある程度大きくなった木の場合でも、雪が融けていく時に、雪の下になっていた枝が雪に引っ張られて無理やり下げられます。雪の引っ張る力が大きい時には枝が折れたり、抜げたりします。
○除雪害
植えた場所が道路に近い場合、押した雪に押されて木が傾いたり、投雪によって表皮がはがされたり、冬芽がけずりとられたようになることがあります。
どんな工夫が必要?
『風』や『土』や『雪』。ただ単純に木を植えてもうまく育つとは限らないということがわかって頂けたでしょうか。
それでは、うまくサクラを育てて、お花見ができるような場所をつくるにはどんな工夫が必要なのでしょうか。
植え方の工夫
確実に活着させる
一般に大きな苗木よりも小さな苗木の方が活着しやすいものです。大きな苗木(樹高3.0〜4.0m程度)と同時に小さな苗木(樹高0.6〜0.8m前後)も植ておくことも方法の一つです。
栽し
風への配慮
風に対する抵抗性を考えると、なるべく密植することが望ましいのですが、サクラ類の場合、枝と枝がふれあうと傷がつき、そこから病原菌が侵入しやすくなるという現象も起こります。ですから、下の図のようなスケジュ−ルを念頭において考えてみてはどうでしょうか。
色彩の演出+風への配慮
うすいピンクのサクラの花をより引き立たせるため、他のグリーン、特に濃いグリーンとの組み合わせを考えてみてはどうでしょうか。一面サクラの花の色にすることだけが、サクラを美しく見せることではありません。風の影響を柔らげるためにも、例えば下図のような混植による演出が必要でしょう。
基盤造成に関する配慮
盛土と客土
木を植える基盤としては適度な空隙を持っていることが大切です。一般に植える場所をつくる時には盛土によることが多いのですが、盛土の締め固め基準では固すぎることになります。ですから、基盤造成の時には表層50cm程度は盛土をするという考え方ではなく客土をするという考えをして、過度の締め固め転圧をしないような配慮が必要でしょう。
表面排水
植栽基盤をつくるときにフラットにすると、どうしても凹みができたりして、その後水はけの悪い場所がでてきます。植栽する場所はできるだけ表面排水を考えて勾配をつけるような工夫も必要です。これは多雪地の場合には、雪圧を一定方向にするという意味でも有効です。
適度な空隙をつくる
植えた木の根が伸びやすいようにするためには、植え穴の外側も適度な固さや空隙が必要です。一般に植え穴には客土をして土壌改良しますが、その周りを耕うん機などで起こしてやるのも、根を伸びやすくするためのひとエ夫です。
特にサクラ類の根は、あまり深く入らず表面近くの根が横に張る性質があるので、周辺を耕うんする方法は有効です。
雪に対する配慮
○支柱(1)
雪圧のかかる方向を考慮して、補強した支柱を使用することも必要でしょう。
○支柱(2)
積雪深よりも小さな苗木を植える場合には、支柱をしない方がより雪圧の影響が少なくて済みます。なぜかというと、支柱をつけてしまうと図のように雪圧で結束部から折れたり、斜面では支柱もろとも傾いたりするからです。小さな苗木の場合には、雪圧で倒伏しても翌年にはすぐ回復して上の方に伸び出します。ですから小さな苗木には支柱をしなくとも良いのです。
植え方
小さな苗木を植える時、あらかじめ雪圧の方向が予想される場合には、木を斜めに植える方法があります。「斜め植え」と呼ばれる方法です。
図のように雪の下では倒伏してしまいますが、春になると再び立ち上がり上に伸び出します。雪折れの心配がなくなります。特に秋の積雪前の植栽には有効です。