ARCS TECHNICAL REPORT No.6
滝野公園景観育成林調査報告 第2報
〜植栽した広葉樹林の林床植生〜
(社)北海道造園建設業協会 ○孫田 敏・丹羽真一
旭川開発建設部旭川河川事務所 小松正明
札幌開発建設部滝野すずらん公園事務所 山田了士はじめに
滝野公園の盛土法面の一部では景観林として広葉樹・針葉樹が植栽された。第1報で報告したように現在では自然林とよく似た林相となっている。
この樹林造成時には樹木植栽部分以外の法面は張芝工によって表面浸食防止が図られていたが、現在では当初導入された外来牧草類はほとんど見られられない。高速道路の法面では種子吹付工施工後の植生遷移を長期間追跡している報告2)はあるが、当初より法面の樹林化を図った場合の林床植生の変化についてはほとんど報告がない。現在検討中の「北海道道路緑化基本計画」では道路法面の在来種による樹林化の促進も課題となっているが、林床植生管理に関する知見は得られていない。
本論では、盛土法面に植栽した在来広葉樹林の林床植生を自然林と比較し、自然植生の復元の観点で評価する。また、稚樹の侵入状況から樹林の今後の推移について検討する。
1.林床植生
(1)調査方法
第1報で報告した調査区の長辺沿いに2列の調査ラインを設定し(No.3のみ1列)、そのライン上に2m×2mの方形区を連続して設置した。方形区数はそれぞれ18〜44個である。それぞれの方形区ごとに出現種名・被度%を記録した。被度は高さ2m以下の植生を対象とした。
それぞれの調査区の種組成を比較するために、被度20%を越えて出現した種を優占種として抽出した(20%を越える種がない場合には優占種なしとした)。各調査区の出現種数・被度の比較にはノンパラメトリック多重比較検定3)を用いた。
(2)出現種と被度
草本層の出現種数は、No.1-1が38種、No.1-2が29種、No.2が89種、No.3が109種だった。1区(2×2m)当たりの平均種数(最小−最大)は、順に4.6種(1−12種)、3.7種(1−8種)、11.5種(2−21種)、13.8種(6−22種)だった。No.1-1とNo.1-2間、No.2とNo.3間のそれぞれには有意差はなかったが、それぞれのグループ間では有意な差が認められた(p<0.05)。
またShannon-Weaner関数H’を用いた種多 様度は、それぞれ1.40・1.11・2.97・3.43となった。
優占種は、No.1-1がアカエゾマツ・イタヤカエデ、No.1-2がヤマモミジ・オニウシノケグサなど、No.2がイタヤカエデ・ミヤマザクラなど、No.3がクマイザサ・ヤマドリゼンマイなどだった。
草本層の合計被度の平均(最小−最大)は、No.1-1が17.7%(0−90%)、No.1-2が14.1%(0−70%)、No.2が27.0%(0−135%)、No.2が49.4%(0−130%)だった(図-2)。No.1-1とNo.1-2、No.2
の間には有意差はなかったが、これらのグループとNo.3の間では有意な差が認められた(p<0.05)。このうちNo.2のアカエゾマツ・トドマツが高密度に植栽されている部分では、出現種数・被度ともに周囲(広葉樹植栽林)より低下していた。
(3)調査地ごとの出現種の特徴
高木・亜高木を除いた出現種について荒地性・林縁性・林床性・その他に分類し、それらの調査区別の出現割合を図-3に示した。
荒地性の植物はいずれの調査区においても同程度(14−15種)の種数が見られた。林縁性の植物・林床性の植物の種数は、No.1-1が4種および2種、No.1-2が2種および3種、No.2が23種および19種、No.3が18種および47種だった。
No.1-1およびNo.1-2では荒地性の植物の出現比率が高く、No.1-2では3種が同程度、No.3では林内性植物の比率が高かった。
2.稚樹
(1)調査方法
前述の各方形区の稚樹の発生状況を調べた。それぞれ方形区ごとに稚樹の発生の有無と種名を記録した。対象は高木・亜高木種のほか低木・ツル性木本とした。
(2)稚樹の発生状況
すべての調査区を合わせると51種の稚樹・実生が見られた。ミヤマザクラ(全調査区を合わせた120方形区のうち58区)・イタヤカエデ(54区)・ミズナラ(47区)・ヤチダモ(33区)などであった。
No.1-1では9方形区(50.0%)に12種(自然侵入種5種)、No.1-2では21方形区(80.7%)に10種(自然侵入種5種)、No.2では44方形区(100%)に41種(自然侵入種35種)、No.3では29方形区(90.6%)に35種の稚樹が出現した。自然侵入種のうち鳥類や小動物が散布する種の割合はそれぞれ80%・80%・71%・62%であった。
3.考察
(1)林床植生の復元について
人工林の林床植生は自然林と比較して、?種数が少ない、?被度が小さい、?林床性植物の比率が小さいことなどで特徴付けられた。ことに厚別川左岸の調査区No.1ではこの傾向が大きかった。一方同じ人工林でも調査区No.2ではこの傾向は小さくなり、稚樹の発生量も多い。これは母樹林に隣接していることが大きな要因であると考えられる。
(2)稚樹の更新
人工林でも母樹がない侵入した稚樹が見られ、その多くは鳥散布樹種であった。高速道路法面では施工後20年程度から侵入種が大幅に増加し、30年後頃から鳥散布型木本種の出現率が高くなる1)とされているが、本調査地のように当初より樹林化し、なおかつ母樹林が近い場合にはこの時間経過はもっと早まっている。ただしこれらの稚樹を定着させ、次の生育ステージへと進ませて構成種の多様化を図るためには、何らかの形で条件整備をしていく必要があるのではないかと考えられる。
4.今後の展開
今後植栽林がどのように変化していくかを知るためには継続調査が望まれる。従来林床植生については森林管理の目標には含まれていなかったが、自然林の復元や森林の更新のためには、重要である。森林管理の目標の中に林床植生も含め、何らかの管理を行った場合どのように変化していくかということを実験的管理手法(adaptive management)を用いながら検討していくことも必要である。
参考文献
1)星子隆・亀山章,1997,高速道路のり面における木本植物の侵入とアカマツの成長,日本緑化工学会誌,22,3151-162
2)星子隆,1999,高速道路のり面における木本植物の侵入と種子散布様式に関する研究,日本緑化工学会誌,25,2,102-114
3)Zar,J.H.,1996,Biostatistical analysis,Third ed .662pp,Prentice Hall.New Jersey