号外:エルサルバドル通信

2007年6-7月号 *2007年7月10日*
by 清水 正

梅雨の候、いかがお過ごしでしょうか?6月3日から中米のエルサルバドルに出かけていました。今回が初めての訪問で、なにやら不安でしたが、思っていた以上にいい国だという印象でした。JICAの地方自治体廃棄物総合管理プロジェクトに、環境社会配慮の担当として1ヶ月赴任しましたが、その辺をお伝え出来ればと思います。

6月の動き

6月3〜4日 移動(アムステルダムーヒューストンーサンサルバドル)
6月7日 プロジェクトの会議(首都にて)
6月9日 Usulutan州海岸のマングローブ林視察
6月12〜19日 現地再委託事業(ウェイストピッカー生活改善)準備
6月15日 東部・La Union最終処分場見学
6月16日 東北部Morazan県Perquin訪問(戦争博物館)
6月24日 カルロスさんの牧場訪問(San Vincente)
6月26日 現地再委託事業・契約締結
6月29日 JICAエルサル事務所・報告/専門家懇親会
6月30日 西部Apaneca山岳地帯訪問(フェアートレードコーヒー組合)
7月1〜2日 移動(サンサルバドルーヒューストンーアムステルダム)

エルサルバドル国・地方自治体廃棄物総合管理プロジェクト(2006-09年)

これまで森林保全とか自然保護の仕事を中心に携わってきましたが、今回はいわゆるグリーン案件ではなく、ブラウン案件の仕事をしています。マニラのスモーキーマウンテンなどで少し知っていたものの、開発途上国のゴミ問題は思っていたより深刻だと改めて感じています。中米でも、首都マナグア市郊外にLa Chureca と呼ばれるゴミ最終処分場では、ゴミの山に群がり有価物を拾う「ウェイストピッカー(ゴミ拾い人)」が数十家族住んでおり、彼らは、拾った有価物をリサイクル市場に販売し生計を立てています。子供たちも多く、まさに貧困に苛まされる社会的弱者なのです。

プロジェクトはエルサルバドル東部のLa Union県の8つの地方自治体を中心に2006年から展開されており、最終処分場の建設やゴミ収集・回収の啓蒙普及等が活動の中心です。私の仕事は、今年3月まで派遣されていた前任者の仕事を引き継ぎ、最終処分場周辺に住むウェイストピッカーの生活改善を目指したプログラムの立ち上げです。具体的には、現地再委託事業として地元NGOを公募し、8ヶ月間の契約を結ぶというものでした。短い期間でしたが、専門家やカウンターパートの助けを借り、経験豊富なNGOと契約を結ぶことが出来ホッとした次第です。

マングローブの林

予想していなかったことの一つに豊かな海産物があります。少し内陸に位置するこの町・サンミゲルにも海鮮レストランが数件有り、Conchaと呼ばれる赤貝の小さなものや、海老・蟹のスープ、イセエビの焼き物など地元の人も結構楽しんで食べています。プロジェクトのHさんが日本からワサビと醤油を持ってきており、お相伴にあずかりConchaを刺身のようにして食べていました。ビールと愛称がとてもよくうれしい限りです。

こういった海の幸は、まだ荒らされていないマングローブ林のおかげかなと思い、6月9日に他の専門家とともに、車で1時間半ほど移動して、Puerto El Triunfoという小さな漁港にみんなで出かけたのでした。昔はエビ漁が盛んだったらしく、廃船になったエビトロール船が湾内に結構放置されていました。漁船をチャーターし、静かな湾内を1時間ほど廻ってみました。昼前だったこともありあまり動物や鳥は見れませんでしたが、ペリカンがマングローブ林の樹冠に止まっていたり、魚や貝の養殖をする地元の漁師の船とすれ違ったりと結構面白いものでした。近くの砂浜にはシーズンになると海亀が産卵に来るとのこと。地元の人は珍味として未だに海亀の卵を重宝しているようですが、保護活動も地道に続けられています。上流部が、ゴミなどの廃棄物で汚染されないようきちんと管理できれば、下流の海もきっときれいに保てるのではと勝手に思ったりしています。

エルサルバドルの経済空洞化

アメリカの経済植民地化している。アメリカからの送金を、故郷に残っている家族が消費するわけですが、結構、大型店が入ったモール街などのスーパーやファストフード屋で散在しているのではないかと近くのモール街に出かけて彼らの買物振りや陳列されている商品を見ては思っています。そうするとアメリカで稼いだお金をまたアメリカ系列の大型店に吸収されているわけで、地元にはほとんどお金が落ちていないのではないかと疑ってしまうわけです。

通貨も以前はコロンという独自のものがありましたが、2001年から米ドルに切り替わり、地元の人は物価が上がったとかインフレだと悩んでいます。国全体の生活水準はそんなに低くないと思うのですが、国の活気も「張りぼて」のような気がしたのでした。

西部Apaneca山岳地帯訪問(フェアートレードコーヒー組合)

最後の週末となった6月30日にレンタカーで西部の山岳地帯に出かけてみました。首都から近いこともあり1時間も走ると高原地帯に入り、道路の両脇はコーヒー畑が連なる丘陵地帯になります。エルサルバドルも内戦(1980-1992年)が始まる前は、隣国グアテマラに負けない良質のコーヒーを大規模に生産していましたが、内戦のため生産高が激減し、最近また上昇傾向にあります。その中でフェアートレード認証団体のFLOが認定しているコーヒー生産組合が4つあることをネットで知り、その一つ、CopuxtlaがあるSan Pedro Puxtulaを目指してみました。Apanecaから近くということで道を探したのですが、町の人の情報がハッキリしておらず3回も同じ道を往復するなど苦労して着いたときはもう、午後1時を過ぎていました。コーヒーの収穫期でもなく、土曜日だったこともあり、組合の事務所は閉まっていましたが、雑貨屋のおじさんの紹介で、Copuxtlaの代表であるDon Nicolas Perezさんを訪ねることが出来、家の中でこれまでの苦労話に耳を傾けました。2000年に組合が出来、フェアートレード認証を受けたものの、思ったほど儲からず、組合が借金を抱えたこともあり、昨年2006年に認証を取り消されるという事態になり、今はまた認証取得に向けて書類等を揃えていると寂しそうに語ってくれました。FLOは、コーヒー大手メーカーのネッスルも承認団体であり、Copuztlaも財政支援や機材購入等で援助を受けるはずでしたが、井戸ポンプしか来ず、期待していたコーヒー豆の値段も売るときになってずいぶん下げられた、とがっかりした顔を見せたのが印象に残りました。フェアートレードは彼らみたいな零細農民のために存在するためなのに、現実はやはり厳しいものだと感じながら車に乗り、帰途に着いたのでした。

最後に

マリエッタは、6月一杯でIFAT事務局の仕事を終え、7月からオランダの開発NGOのひとつであるICCOで働いています。リスク管理や災害普及担当です。また、7月7日(土)に世界中で地球温暖化をテーマにしたLiveEarthのコンサートがあり、オランダでもTV中継されていましたが、歌手やバンドから、地球温暖化に対する具体的なメッセージがほとんど伝わってこなかった印象を受けました。オランダも国土の3分の1が水面下なので、深刻な問題ですが、将来どうなるのか不安ではあります。

以上、近況報告を兼ねて、号外を書いてみました。少しでもこちらの近況が伝われば幸いです。今後ともどうぞよろしくお願いします。