2002年8月23日、柳井講師の指導のもと、白老町毛敷生川に設置された第4床固工の実験的なスリット化が実施された。第4床固工は、提高3m・提長58mの鋼製格子状ダムで、1974年に完成した。これも含め毛敷生川のダムは、上流から下流まで2%の安定勾配を確保することを目的としているので、自然勾配の特に急な箇所(第4床固工周辺)では数十mおきの間隔でダムが配置されている。
毛敷生川が実験地として選定された理由は次のとおりである。
2002年のスリット化では、第4床固工の中心の格子ユニットを一つ取り外し、幅2m・深さ3mのスリットが作られた(図3)。施工前には天端上を流れていた水は、施工一時間後にはすでに堆砂を掘削し、スリットを通る新たな流路を形成した。その流路は現在も保たれている(図4)。
柳井講師が行った2002−4年の調査で以下のことが明らかになった。図5はスリット化後の地形の変化と土砂流出量を表わしている。2002年9月4日までに、河床勾配は安定勾配の2%から8%へ増加した(図5B)。スリットダム上流の地形は施工翌日8月24日の豪雨で形成、下流の地形は同年9月28日に通過した台風21号によって形成されたと考えられ、その後の地形変化は少ない。土砂流出量については、2002−3年には810m3の土砂がダム上流の縦浸食により流出、そのうち516m3が下流の第2床固工までに留まった(図5A)。2003−4年にはこれらの値がそれぞれ846m3、386m3だったので、スリットダムからの土砂流出量に大きな変化はないものの、第2床固工の下流へより多くの土砂が流出したことになる。スリット化後、下流へ流出する土砂の平均礫径が増加した。また、スリット化で河床堆積物にも変化が見られた。施工前の河床は、ダム設置後に堆積した白っぽく不安定な礫で覆われていた。しかし、施工後の河床の浸食でそのような礫が流出し、大きく色の濃い古くからの河床堆積物が現れた。柳井講師の見解では、これは非常に安定した礫で、現在の流量からすると今後の流出は考えにくい。
このように、スリット化後の地形変化が少ないことや自然の安定した河床が復活したことから、第4床固工のスリット化を成功例として受け取ることができるかもしれない。だが、スリット化による影響の評価方法はまだ確立されていないようである。たとえば、どこまでの土砂流出を許容するのか―土砂流出量を測るだけでなくその数値の意味を考えなければならない。また、魚が上れるようになれば成功なのか―このスリットダムの場合、流れが急で魚が上れるようには見えない。そして、スリット化でダムの災害防止機能が影響されたのか―すぐ下流に複数のダムが設置され、周りに災害から守るべき住宅や農地のないところでは評価しがたい。この毛敷生川での実験結果を他の場所で活用するには、スリット化を何をもって効果的とするのか、その評価基準を定める方法を考える必要があるだろう。