イギリス皇室の離宮があるウィンザーからテムズ・パスを下る。駅裏から歩き出すとほどなくオールド・ウィンザー・ロックが見えてくる。前日通ったテディントン・ロックに続き2つ目のロックである。とある本で読み、予備知識があったものの、水運や運河を見慣れない私には珍しい限りである。
Lockは閘門(こうもん)と訳されている。閘門は上下流に大きな高低差がある川で、行き来する船の便を確保するために設けられる水門である。ある区間の上下流に水門を設け、例えば下流から船が上ってくる場合には上流側の閘門は閉め、下流側を開いて閘門間に船を入れる。次に下流側の閘門も閉じ、閘門間を満水にして上流側と同じ水位にする。このあと上流側水門を開き、船は上流区間へと進む。下るときにはこの逆の操作となる。
テムズ川では本流には堰を設け、その脇の水路を閘門として利用している。
オールド・ウィンザー・ロックの下流端にさしかかったとき、偶然ボートが閘門に入っていった。近くに管理人の詰所があって監視しているらしい。ボートが閘門を通っていくと、管理人が出てきて閘門の操作をはじめる。ものの本では小さな運河では手作業とのことだが、さすがテムズ川では、「エレクトリック!」と管理人はいっていた。
雨が降ってきたにもかかわらず、はじめての閘門操作をしばらく眺めていた。入ってから出るまで、どれだけの時間がかかったのだろう。時計すらみることを忘れていた。