「勝者」と「敗者」/「正」と「邪」

塩野 七生

このような時代(16世紀)では、牢獄内の状態は劣悪でそこでの捕囚生活が苛酷きわまりないものであったことは、キリスト教圏であろうとイスラム圏であろうと変わりはなかったが、宗教が介在するやいなや、より劣悪より苛酷になることでも変わりはなかったのである。権力や利益をめぐっての抗争ならば「勝者」と「敗者」にしか分かれないが、そこに宗教が入ってくると、「正」と「邪」に分かれてしまうからである。

110816/2009年
塩野七生,2009,ローマ亡き後の地中海世界 下,86p,383pp,新潮社