対話・風土

渡辺一史

前の方の文章で、北欧やアメリカなど、福祉先進国の例をいくつか引いたが、日本で障害者の自立生活や自宅福祉が立ち遅れているのは、なにも差別や偏見が根強いからではなく、むしろ相手に遠慮ばかりして、なかなか本音を語り合わない国民性、摩擦や対立を「対話」で乗り越えることに慣れていない日本の風土こそ関係があるのではないかと私は思うようになってきている。

障害者を抱え込むか(施設)、突き放すか(親元)、その中間のほどよい距離がなかなか見いだしづらい社会なのだ。

だとしたら、重度障害者の自立生活というのは、こうした風土の壁を突き破り、対話やコミュニケーションを重視した新しい人間関係のあり方を探ってゆく可能性も秘めていることになる。

なぜもっと会話しないか、なぜ目の前の相手にもっとぶつかっていかないか、という才木の言葉を訊いていて、私はそんなことを思っていた。

2005/05/05
渡辺一史(わたなべ かずふみ),2004,こんな夜更けにバナナかよ,319-320p,463pp,北海道新聞社