好い加減

なだ いなだ

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話は変わるが、アルコール中毒の治療医のぼくは、アルコーリズムをアルコール中毒と訳すなら、イデオロギーを示すイズムという語尾をもったマルキシズムはマルクス中毒、クリスチャニズムはキリスト中毒、パトリオティズムつまり愛国心は、国家中毒と訳したらどうか、といって、「好い加減なことをいう」と非難された。アルコーリズムのイズムに、しばらくして依存という訳語が与えられるようになった。

そこでぼくはマルクス依存、キリスト依存、国家依存と訳し直し、またまた顰蹙を買った。(最近、この愛国心を子どもに教え込もう、そのために、教育基本法を改正しようなどという人があるが、パトリオティズムが国家中毒や国家依存と訳されていたら、そんなことは考えないだろう。何人もの愛国心派の政治家が、汚職で消えていった現実も、この訳なら当然なことと納得できる)。

社会主義という宗教が、求心力を失って、その空白を埋めるように、宗教が力をのばしている。だが、そこに宗教戦争の危険が潜む。今こそイデオローギーを超えるために、精神科医としては「好い加減」という価値観の模索が必要だと考えるのだが。

2003/02/16
なだ いなだ,2003/01/16,朝日新聞夕刊(札幌版)